
【オープンイノベーター列伝/瀬川秀樹】 忖度(そんたく)するな。まずは個人がオープンになれ。<後編>
新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる瀬川秀樹氏にインタビューを敢行。 前編に続く、今回の後編記事では、リコーに入社し、新規事業でシリコンバレーに駐在した後のキャリア、そしてオープンイノベーションに必要なことは何かを語っていただいた。
■オープンイノベーションにはまず個人がオープンであること。
2002年に帰国し、技術戦戦略室の室長、2009年からは新規事業についての実質的な責任者を務めた瀬川氏。その間、人と会うことが仕事と言えるほど多くの人と会い、社内外でネットワークを築き上げた。「私の立場で求められることと言えば、人を引き込むことでした。特にアーリーステージから仲間を集めていきましたね。社外からもよく話を持ち込まれました。私はすべて話を聞きましたよ」。いつしか『何かあれば瀬川さん』という評判も立つようになり、自然と人と情報が集まって来るようになります。 「オープンイノベーションで一番大事なことは個人がオープンであることです。腕組んでオープンイノベーションが、なんて講釈をたれているのは、はっきり言って気持ち悪い。まずあなたがオープンになりなさい、と言いたいですね。チャンスは右から左に流れていると思ってください。サラリーマン的に腕組みをしていてもチャンスはつかめないでしょう。まずは手にとってみる、つまり会って話を聞いてみることが大事です」。
■経営層はラフデッサンをして、スタッフが動きやすい土壌を作るべき
「オープンイノベーションは本来、個人ベースのことです。それを組織で行う場合、やってやろう、と思うタイプが担当になるなら問題ありません。一方、評論家になり批判している人は向いていないんです。会社側は適性を見極めて配属しないとダメでしょう」。 また、オープンイノベーションやCVCが目的になってしまっている問題も指摘します。 「何のためにやるかという上位概念が欠落している場合が本当に多い。経営層はラフデッサンを描き、大まかな方向性を示すべきです」。 しかし、どうしても上の人の顔色を伺ってしまう傾向もあるはず。この点について瀬川氏は「忖度(そんたく)するな」と強調する。――「忖度」とは他人の考えや気持ちを推量することだ。 「例えば、今は経営が良くないから、海外出張になんか行けるはずがないと考えてしまう。でも、本当に必要なら、提案してみることです。オープンイノベーションに挑戦するということは、未来に投資をするという経営層の覚悟の表れです。それに対し、真摯に必要なことをしていればいいんだと思います」。 瀬川氏は常に心をオープンに保ち、社内から社外、日本から世界へと「はみ出して」いった。未知の領域へも、なんとかなるだろうという心持ちで乗り出し、多くの人と会い、知見や価値観、可能性を広げている。今でも年間、少なくとも1000人とは会っているという瀬川氏。その心構えや行動はオープンイノベーションの参考になることが多いはずだ。 (構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:佐藤淳一)