1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 官民の多様なプレイヤー約170名が集結――経産省・関東経済産業局が主催する「オープンイノベーション推進者交流会」で語られた共創事例とは?
官民の多様なプレイヤー約170名が集結――経産省・関東経済産業局が主催する「オープンイノベーション推進者交流会」で語られた共創事例とは?

官民の多様なプレイヤー約170名が集結――経産省・関東経済産業局が主催する「オープンイノベーション推進者交流会」で語られた共創事例とは?

  • 423
  • 420
  • 419
3人がチェック!

去る8月9日、東京・渋谷の東京中小企業投資育成株式会社ビルで、「オープンイノベーション推進者交流会」が開催された。本交流会は、経済産業省 関東経済産業局が主催となり、大手・中堅、中小、スタートアップの広域連携によるオープンイノベーション構築事業の一環として継続的に取り組まれているものだ。

第5回目の開催となる今回は、主催者である経済産業省によるオープンイノベーション推進施策の紹介をはじめ、イノベーションマネジメントシステムを巡る世界動向、大手企業とスタートアップ、中小企業の連携事例などの報告講演が行われた。また、講演の後には立食パーティー形式で懇親会も開催され、ネットワーキングの場も設けられていた。

会場には大手からスタートアップまでの多くの企業、大学、研究機関、産業支援機関、行政など、オープンイノベーションに関心の高い多様なプレイヤー約170名が集まり、熱心に報告講演に聴き入りながら交流を深めた。

本記事では、冒頭に語られた経済産業省によるオープンイノベーションの推進施策や、一般社団法人 Japan Innovation Network(JIN)専務理事 西口尚宏氏による講演「イノベーションマネジメントシステムの世界の最新動向」、小松製作所とJR西日本によるオープンイノベーション事例、ファナックによるオープンイノベーション実践など講演を中心にレポートする。

多様なプレイヤーのマッチングを生む、関東経済産業局による”仕掛け”

最初に、主催者である経済産業省 関東経済産業局 地域経済部長 北廣雅之氏による主催者挨拶に続き、同部 産業技術革新課長の門田靖氏から、同局の取り組みが紹介された。

関東経済産業局では、自立的なイノベーションエコシステムの形成と、地域での取り組みの活性化を目指し、オープンイノベーション・プラットフォームの構築を推進している。そこでは、大手企業や中堅企業からのイノーベーションパートナーを求めるニーズと、各地の自治体、産業支援機関、金融機関、大学などのコーディネーターが発掘・紹介する中堅中小企業、スタートアップなどとをマッチングさせるためのハブ機能を同局が担うとされている。

また、弁護士、弁理士などの専門家による知財関係のサポート、省庁地方局、経産省の地方経済局、中小機構、NEDO、JETROなど関係機関との連携、さらには、eiiconをはじめとした民間サービスとの連携も掲げられている。

具体的なマッチングの機会としては、(1)対話重視型マッチング、(2)オープンイノベーションチャレンジピッチ2019、(以上はニーズプル型マッチング)、(3)シーズプッシュ型マッチング(4)ビジョン共有型マッチング、の4ジャンルが設定されている。それぞれの詳細は以下の通りだ。

(1)対話重視型マッチングは、主に大手企業の「社会性の高い技術的課題」に対して、技術と意欲を有する中小企業の連携を促進するもの。大手企業による説明会の開催やその場での議論などの対話を重視している。これには、後に登場するJR西日本と小松製作所の取り組みなどの事例がある。

(2)オープンイノベーションチャレンジピッチ2019は、外部連携意欲の強い大手・中堅企業がピッチをおこない、自社のオープンイノベーション戦略や求めるパートナー像、具体的技術などを情報発信する機会を提供するもの。第1回は7月に開催され、年内に第2回、そして来年にも引き続き開催の予定がある。

(3)シーズプッシュ型マッチングは、AI、IoTなどを駆使して生産性革命に寄与する革新的技術やサービスを持つスタートアップと中堅、中小企業とのマッチングを実施するもの。人手不足など中堅、中小企業が直面する課題の解決をはかる。

(4)ビジョン共有型マッチングは「地域ブランド向上」や「未来のまちづくり」をコンセプトに、大手企業、中小企業、スタートアップ、自治体など、既存の枠組みを超えたネットワーキングで新ビジネス創出をサポートするビジネスビルドプロジェクト。大田区の協力により羽田跡地をイノベーション拠点として活用していくプロジェクトなどが取り組まれている。

 最後に、中小企業基盤整備機構関東本部と関東経済産業局とにより運営されているネット上の窓口として、「オープンイノベーション・マッチングスクエア」が紹介され、「本日ご参加の皆様方におかれては、本日のようなリアルなイベントと、オープンイノベーション・マッチングスクエアのようなWebサイトの両方から、ぜひ新しい出会いを見つけていただければと考えています」(門田氏)との言葉により締めくくられた。

※なお、取組については、関東経済産業局のWebサイトにて紹介。

経産省のイノベーション推進施策について

続いて、経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課長 今里和之氏からは、同省が進めるオープンイノベーションの推進施策と、「ベンチャー企業との連携のための手引き」の紹介がおこなわれた。

まず、世界規模でみて、付加価値の源泉がモノの生産からIT、サービスに移行し、イノベーションのスピードが加速度的に上昇し、多くの新しいビジネスや企業が生まれている現状と、その中で日本が量的にも質的にも、遅れをとっている状況についてデータを用いて確認された。「スピード感を持ってイノベーションを興していく上で、自前主義では限界があることは明らか。スピードはもっとも重要な要素」(今里氏)ということだ。

そこで、スピード感をもって次世代の技術や企業を育成するためには、官民を挙げてオープンイノベーションを推進しなければならないが、その中で大企業は既存事業に最適化された合理的な経営をおこなっているがゆえに、破壊的なイノベーションへの対応は難しく、スタートアップ、ベンチャーを中心としたエコシステムが求められている。その実現のためには、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)など、オープンイノベーション・プラットフォームを拡大していくと共に、税制改正によるオープンイノベーションに対する優遇、支援措置なども必要とされる点が示された。

本講演の2本目の柱は、『事業会社と研究開発型ベンチャー企業との連携のための手引き(第三版)』の紹介である。同手引きは、オープンイノベーション促進のために、2016年度から経済産業省産業技術環境局により作成されている資料だ。

初版は「ベンチャー連携における課題の整理」、第二版は「ベンチャー連携における課題の類型化と打ち手の整理」がテーマであった。そして、本年4月に公表された第三版では、ベンチャー連携を進める方法の一つとして近年注目が集まるCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)に焦点が当てられ、「CVC活動における課題の整理・類型化と打ち手の整理」がテーマとされている。

日本においてもCVC投資額は年々増加しているものの、運用期間が長くなるにつれて問題が発生するケースも増えている。「最初の段階から投資の目的やスコープをきちんと明らかにしておくこと、それに見あった人材や組織体制、報酬でCVCを設計した上で、協業をしていくことが大事」(今里氏)ということで、同手引きではCVCが日本に根付くかどうかは、これからが正念場を迎えるという認識を背景に、設計や運用の考え方や具体的な対応について解説されていると紹介された。

※なお、同手引きの初版から第三版まで、経済産業省のWebサイトでダウンロード可能。

イノベーションマネジメントシステムの世界の最新動向

一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)専務理事の西口尚宏氏からは、「イノベーションマネジメントシステムの世界の最新動向」と題して、イノベーション経営の国際標準であるISO56000シリーズについての紹介がなされた。

まず、2009年頃から日本および欧州においてオープンイノベーションへの必要性が認識されはじめて以降、2013年にEU規格が策定され、それをベースにして2019年のISO56000シリーズの発行に至る流れが概括された。その中で、西口氏自身は2015年から欧州の策定委員会に日本代表として加わり、ISO56000の規格作りに参加している。

 基本認識として、「経営のルールが変わった。これまでの『効率性の追求』から、それに加えて『創造性の追求』が必要になった」(西口氏)ことが語られ、たとえば、2012年からの米国GE社での大規模な経営改革において、シックスシグマではイノベーションは起こらず、シックスシグマ経営に加えて創造性追求の経営が必要とされていると語られていたことなどが紹介された。

ビジネスのプロセスを創造性と効率性とにわけたとき、前半が創造性、後半が効率性のフェイズになる。現代の経営では、後半の効率性の追求については「できて当然」ともなっており、前半の創造性の部分が企業の競争力に差につながっている。しかしそのフェイズには明確な方法論が存在していなかった。そこで今回のISO56000シリーズでは、その前半の創造性のプロセスを標準化している。

ISO56000シリーズの具体的な中身だが、まずイノベーション経営について、以下の8つの「原理原則」が規定されている。

1)価値の実現、2)未来志向のリーダー、3)戦略的な方向性、4)組織文化、5)洞察の追求、6)不確実性のマネジメント、7)柔軟性、8)システムアプローチ

その上で、イノベーションの全体のプロセスを、「機会を見つけ、コンセプトを創造し、コンセプトを検証し、ソリューションを作り、導入する」の5要素を経て、最終的に価値が生み出されるものと定義した。ここで、各要素間がリニアに進むのでは無く、行き来しながら試行錯誤を重ねることの重要性が強調された。

そして、このプロセスを中心として、それを取り巻く「企業組織の状況、リーダーシップ、経営資源の配分などの支援体制、PDCAサイクル」などの全体を規格化したものが、ISO56000の全体像となる。

 「ビジネスモデル、デザイン思考、オープンイノベーション、スタートアップ支援、CVC、など、誰でもがやっている目的を持った活動の凝縮はすべて、スマホで言えばアプリに相当する。私たちがISO56000で目指したのは、そのアプリが動くOSを規定すること」(西口氏)とされ、ISO56000がオープンイノベーションにおける世界的な共通言語になることへの期待が示された。

「小松製作所×JR西日本」による共創事例とは? 

中小企業と大企業とのコラボレーション事例としては、株式会社小松製作所から、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)との共創事例について発表があった。

小松製作所は1938年に東京で創業、現在は長野県松本市で営業し、主に建設用機械部品や農業用機械部品などの受託製造をしている機械部品メーカーである。今回の共創は、経済産業省関東経済産業局が中核企業の事業拡大・技術力向上の支援を目的として実施した「JR西日本による『車いすでの車両乗降時の段差・隙間の解消』コンテスト」に小松製作所が応募し、採択されたことからはじまった。

▲株式会社小松製作所 代表取締役社長 小松浩康氏、中村氏

同コンテストにおいて提示された課題は、車いすを利用する乗客が電車に乗降する際のギャップとなる、ホームとの隙間や段差を解消する機構の構築。ただし、「車いすの乗客がそのまま使用して、自動で、あるいは乗客自身の操作で、車いす利用者のみが電車に乗降できるもの」「利用者が電車へ乗り入れたことを機構が自動的に判断し、ホームの定位置まで自律的に戻るもの」などのレギュレーションが定められていた。車いすの乗客が、駅員や介助者なしで安全に電車に乗降できることが目的である。

「コンテストのレギュレーションを最初に見たとき、自走式ロボットのような機械を想定しましたが、比較的大型の産業用機械部品を製作していた私たちにとって、それはまったく未知の分野でした。そこで、それまでに弊社で培っていた技術を応用する形での製品案で応募したので、正直、プレゼンテーションを通過する自信はありませんでした」(小松製作所、中村氏)

しかし、同社の提案は審査を通過。その後のデモ機の製作の際には、コンテスト募集時の要求仕様からの大幅な仕様変更があったため設計の変更が必要になり、設計着手から完成まで実質2週間ほどであったという。それでも、小松製作所のスタッフは、「できないのではなく、できる方法が見つかっていないだけと考える」「困難や苦境を楽しむ」「技術はこうあるべきという固定観念に囚われない」といったマインドで、製作を進めた。そして最終的に、完成したデモ機が採択された。

同社は、今回の共創を通じて感じたオープンイノベーションのメリットとして、①一般的な受託関係と異なり、相互に情報や思想の伝達・共有が素早く正確で、大企業と中小企業の間にありがちな壁が取り払われていたこと②互いの強みを生かしながら、不得意な分野を補完できたこと③大手企業の技術情報などを共有されることにより、異分野への挑戦がしやすくなったこと、の3点を挙げている。

またオープンイノベーションに取り組んだことで、同社内に、知識や見識の向上、挑戦する意識の醸成などのポジティブな変化も生じた。一方、知財の権利関係の処理について経験がほとんどなかったため、その対応には苦慮したという。今回は、協創相手であるJR西日本の協力を得ることで適切に処理できたが、知財処理の面は課題として残されている。

また、今後に向けての取り組みとして、①開発部門の設置、人員配置②守秘義務に対応できる密室の試作開発エリアの設置③オープンイノベーション等への積極的な参加、などがすでに実施されはじめていることも報告された。

「今回のオープンイノベーションによって得られた最大の成果は多くの『つながり』ができたことです。それは、共創相手であるJR西日本様や協力会社様とのつながり、また、困難なプロジェクトを成し遂げた社員間での強固なつながりです」(小松製作所、中村氏)と、今回の取り組みでの成果がまとめられた。

ファナックによる”オープンイノベーション実践”の裏側に迫る

ファナック株式会社は、工作機械用NC装置で世界トップシェアを誇り、産業用ロボットでも大きなシェアを持つ、高度な研究開発型ものづくり企業である。同社は、早くからオープンイノベーションを推進しており、その姿勢が評価され、特許庁の平成31年度「知財功労賞」において、オープンイノベーション推進企業として経済産業大臣表彰を受けた。同賞において評価された点を中心に、ファナック株式会社専務執行役員 松原俊介氏の講演がおこなわれた。

今回の講演では、1つめのテーマとして、生産拠点のグローバル化や労働人口減少など、製造業の抱えている課題を解決するための高度な自動化要求に応える「スマート工場」実現への取り組みが紹介された。

スマート工場実現のためには、IoTとAIを活用したオープンイノベーションによるエコシステムが構築されなければならない。そのプラットフォームになるのが、オープンイノベーションにより開発された製造業向けIoTオープンプラットフォーム「FIELD system」である。現在では、500社以上の企業が「FIELD system」に参加し、より高度な「スマート工場」に向けた活用を進めている。

また、2つめのテーマとして挙げられたのが、知財によるオープンイノベーションの推進である。「協業で生まれた成果について、立場の強い企業が知財の権利を取ってしまうということが生じがちです。しかし、長期にわたって成果を出し続けるためには対等な立場で相手を尊重することが大切なのです」(松原氏)。そのためには、協業企業、あるいは産学共創による知財について、対等な関係で共同出願をおこなうことがひとつのポイントとなる。

ファナックの公開AI特許件数は世界全体で9位、日本国内で3位だ。コア技術だけでなく周辺技術を含めた出願により知財ポートフォリオを形成することが、とりわけグローバルな展開の上では重要で、オープンイノベーションを進める上での基盤にもなると話された。

最後に、松原氏は、「オープンイノベーションは、それ自体が目的なのではなく事業を成功させることが目的であり、そこにシナジー効果がないなら、取り組む意味がない」と語り、事業的な成功のためには相互理解が重要だと強調された。その具体的な取り組み方法として、「協業領域を明確に区別すること」「工場などの現場を見ることと」「技術者同士の議論を重ねること」「開発を円滑に進めるための知財契約をすること」などのポイントが示された。

取材後記

2時間超にわたった講演プログラムは、どれも現場での実践に根ざしたものだけに、非常に説得力が感じられた。先進的な成功事例だけではなく、世界の潮流の中ではまだまだ出遅れている日本のオープンイノベーションの現状、また大企業と中小企業の共創において課題となる論点なども提出されており、今後の一層のオープンイノベーションの推進に資する内容であった。講演のあとには、飲食をしながらのネットワーキングセッションも用意されていたため、この場から具体的な共創につながる新たな芽も生まれたのではないか。

(編集:眞田 幸剛、取材・文:椎原よしき、撮影:加藤武俊)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント3件