役員3名に直撃――未来の都市開発を進める、フジタのオープンイノベーション構想とは?
株式会社フジタは、創業100年超の歴史を持つ総合建設業だ。現在は大和ハウスグループの一員として、グループの総合力を活かしながら、人、街、暮らしにかかわる価値創造を広く展開している。国内建設事業を中核としながら、海外での建設実績も多く、また、街づくりや環境創造についても多くの実績を持つ。
そのフジタが今回、「自然、社会、街、そして建設のみらいを共に拓く」をコンセプトにした【FUJITA Open Innovation】という取り組みを始動させ、新たな価値創造を目指すパートナーを募集している。実際に、ロボットメーカーや住宅設備機器メーカーとの共創を推進させている同社は、オープンイノベーションによって未来を切り拓く、その一歩を踏み出し始めていると言えるだろう。さらに、上記したコンセプトのように、同社のオープンイノベーション戦略はコア事業である建設だけにとどまらず、社会や街づくりにもそのアンテナは向いている。
――そこで、フジタがパートナー企業を募る背景・理由から、提供できるアセット、どのようなビジョンを共有していきたいのかについて、オープンイノベーションを推進している役員陣3名にお話をうかがった。
<写真左→右>
株式会社フジタ 執行役員 技術センター所長 組田良則氏
株式会社フジタ 上席執行役員・経営改革統括部長 / 藤田(中国)建設工程有限公司董事長 君島誠司氏
株式会社フジタ 常務理事・オープンイノベーション推進部担当 エンジニアリング営業部担当 小林勝已氏
「自前主義の限界」を、パートナー企業と共に突破する
――創業から100年を超える歴史を歩んできた御社が、今回、オープンイノベーションに取り組むに至った背景を教えてください。
君島氏 : ご承知のように、現在の日本社会における最大の問題は少子高齢化にともなう人口減少です。これは、建設業界にも2つの点で大きなインパクトを与えています。
1点目が、「需要の減少による市場のシュリンク」です。こちらは足元ではまだ大きく顕在化はしていませんが、近い将来に現れてくると思われます。これに関して、弊社は従前より街づくりを重要業務分野としていますが、単に建物を作るだけではなく、IoTを活用することで暮らしの効率性や環境保全性などの点で価値の高い街づくりの必要があると考えています。
もう1点のインパクトが、「働き手の急減」です。こちらはすでに現場の人手不足という形で顕在化しており、外国人労働者の受け入れ推進などの対応策も多少進んではいますが、それでは間に合わない状況です。
弊社の現場でも、50歳以上の従業員の数が多く、35歳から50歳くらいまでの人が極端に少ない、いびつな年齢構成になっており将来にわたり働き手の減少が見込まれます。それに対応するため、イノベーティブな生産性向上が求められます。これに関しては、後でまた触れますが、すでにロボットを導入した実証実験なども行っており、より推進していきたいと考えています。――大きく は、この2点の問題に対してオープンイノベーションにより解決を図っていきたいことが背景事情としてあります。
組田氏 : 現場の生産性に関していいますと、自動化や省力化の技術が世の中では非常に進んでいるのに、建設業界ではそれを活用できていません。そのため、たとえば製造業の工場などと比べると大きく遅れをとっています。その点で、自前主義の限界が明らかになっているので、ぜひ外部の知見をお借りしたいということです。
――オープンイノベーションに取り組む社内の体制はどうなっているのでしょうか。
小林氏 : 実は以前から、オープンイノベーションという言葉こそ使っていませんでしたが、外部との共同研究を実施してきた歴史はあります。子会社を通じて海外から新しい技術を採り入れたり、新事業に応用したりしてきました。それを本社で組織立ってやっていこうということで、2年前にオープンイノベーション推進部ができたのです。現在の部署のメンバーは、海外駐在員を含めて約10名です。
君島氏 : 社内の体制的な話ですと、全社的な機構改革により経営改革統括部という部門が設けられ、その下に経営企画部、経営改革推進部、オープンイノベーション推進部、ダイバーシティ推進部など、9つの部署がまとめられました。これらの各部署は社長直轄で動いており、またひとつの経営改革統括部の部署であるため、関係部署への稟議なども非常に素早く通すことができるようになり、共創事業においても意志決定と対応の迅速化が実現しました。
パートナー企業を募る、3つの共創テーマとは
――これまでにオープンイノベーションとして進められた共創や事業化の事例にはどんなものがあるのでしょうか。
組田氏 : ソフトバンクさん、ソフトバンクロボティクスさんと共同で、ボストン・ダイナミクス社の四足歩行ロボット「Spot」を建築現場で活用する実証実験を進めているところです。建築現場にロボットを導入する際に問題となるのが、現場は平らではなく多くの段差があるので、移動の難しさにあると言えます。その点Spotは、人間の足で移動できるところなら、ほぼどこでも移動できるので建築現場向きです。
建築現場の巡回点検、安全チェック、出来高・工程確認といった用途で活用することを検討しており、これが実現すれば職員が現場に出向く頻度を減らすことができます。
▲ボストン・ダイナミクス社の四足歩行ロボット「Spot」
小林氏 : もうひとつ、「眠リッチ」という寝室用パネルエアコンがあります。これは簡単にいうと、非常に薄型のパネルエアコンであり、赤外線を利用した放射冷暖房システムを採用したことで、静かで風が気にならないため快適に眠り続けることができるものです。
こちらは、弊社の技術センターが考案したアイデアをもとに、山口県にある長府製作所という住宅設備機器メーカーと共同で開発しました。この6月から発売を開始しています。
▲「眠リッチ」は、赤外線の効果により、体の冷やしすぎや熱しすぎを防止し、睡眠中の身体に負担をかけない温度管理ができる。
――今回の共創パートナー募集にあたっては、提供リソースとして資金提供あるいは出資も挙げられていますが、これらの事例はありますか?
小林氏 : 以前は、共同開発やライセンス購入のような形でのパートナーシップがほとんどで、資金援助や出資などでより深く相手企業にコミットしていく方向を採り入れはじめたのは、ここ最近のこと。ですが、まだ発表できる段階までには至っていませんが、現在進行中の案件があります。
――では、今回、パートナー企業と共に事業創造を目指すのはどのような領域になり、どのような技術を求めているのでしょうか。
小林氏 : 3点ありまして、1つ目が「すべてがリンクする未来の都市開発」、2つ目が「生産性・安全性に優れた建設業を実現する」、そして3つ目が「技術とアイデアの実装により、持続可能な社会を創る」ということになっています。
まず1つ目の「すべてがリンクする未来の都市開発」ですが、これはIoTを基盤としたコネクテッドな都市機能の実現が考えられます。たとえば、住民の健康データ管理、廃棄物利用などのエコロジー対応、空き家や買い物難民解消のためのシェアリングシステムなど、新しい形のインフラを備えた街づくりです。
私たちは以前、千葉県の津田沼駅前で35ヘクタールに及ぶ大規模な都市開発「奏の杜プロジェクト」を遂行しました。そのときも、技術センターにも参画してもらい当時のさまざまな最先端技術を実装した街づくりをしようということで、センシング技術等を用いて街全体のセキュリティシステムの計画・導入などを行いました。そういった実績を踏まえて、さらに高度で効率的な街づくりを進めたいということです。
――2つ目の「生産性・安全性に優れた建設業を実現する」は、Spotのようなロボットの導入でしょうか。
組田氏 : それも1つですが、ほかにもいろいろ想定しています。たとえば、センシングやAIを使って、現場の工程管理、資材管理などの生産管理情報を統合して「見える化」し、データ解析やストラテジーの構築を通じて生産性向上を図ることも考えられます。また、建築現場の仕事はどうしても重いモノを持つ必要があり、それが女性や高齢者の活用を妨げているので、それをサポートするような技術も望まれています。
さらに個人的には、屋内での高精度な位置認識技術があればぜひ教えていただきたいと思っています。建築や土木の屋外現場では、GPSやドローンの活用によってかなり高精度な位置認識が可能となっていますが、屋内はビーコンを使ってもせいぜい10数センチ程度の精度でしか位置認識ができません。
しかし、たとえば屋内で図面通りに部材の施工がなされているかをロボットに確認させるような際には、ミリ単位での確認精度が必要です。そのような技術をお持ちの企業さんにはぜひお声をかけていただきたいですね。
君島氏 : 3つ目の「持続可能な社会を創る」という点に関しては、環境配慮型のコンパクトシティ形成など、社会課題解決による事業創造という意味もあります。そこで求められるのは、水質浄化技術により水資源利用の最適化を図ることや、廃棄物利用により循環型社会を推進すること、さらに高効率のクリーンエネルギー開発といった技術も含まれます。
また最近は、異常気象が日常化していますが、たとえば短時間の集中豪雨などを予測し、それによって生じる可能性があるインフラのトラブルを防止するようなセンシング技術や解析技術もニーズが高いと思っています。
街づくりやグローバルビジネスにも強みを持つフジタ
――先ほど資金提供のお話がありました。それ以外に、御社から共創パートナーに提供できるアセット、あるいは、パートナー企業からみたときに御社と共創することで得られるメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
小林氏 : まずは、創業以来100年以上にわたって積み上げてきた、建築、土木分野の技術ノウハウがあります。厚木の技術センターには、建築・土木はもちろん、先ほど申し上げた自然災害や水資源、クリーンエネルギー、産業廃棄物・食品廃棄物のリサイクルなど、さまざまな研究も可能な環境や設備もご用意しています。
次に、単なる建物の建設にとどまらない土地開発や街づくり事業への取り組み、その実績とノウハウがあります。最近だと先にお話した津田沼の「奏の杜プロジェクト」があり、未来の社会を見据えて街の景観から暮らしまでもが様変わりするような大規模な事例があります。このように、ひとつの「街」そのものをイチから開発する市街地再開発事業、土地区画整理事業、不動産投資事業などがあり、それらに関連した実験や実装が可能なことは、弊社の強みだと考えています。
さらに、国内外で年平均300件ほどの現場を抱えているため、国内外でのさまざまなレベルでの実証実験の機会が非常に多く得られることも挙げられます。
▲千葉県習志野市JR津田沼駅南口に位置する35ヘクタール(東京ドーム7.5個分)もの土地が舞台となった「奏の杜プロジェクト」 ※画像はプロジェクト座談会ページより抜粋
組田氏 : 私たちの技術センターでは、IT、AIやロボットの専門研究者はいないのですが、建築・土木の研究者が以前から業務の一環としてIT研究にも取り組んでいます。
まだパソコンがない時代に、マイコンを使った自動計測を作るといったことにはじまり、IT活用の研究を連綿と続けてきました。そのため、外部企業との共創でも「これを作っておいて」と丸投げするようなことはなく、一緒になって研究・開発していく文化が根付いています。これも共創を進める上では大切なポイントではないかと考えています。
▲1960年に創設された藤田組技術研究所から数十年にわたって知と技術を集積させてきた「フジタ技術センター」(神奈川県厚木市)
――海外の現場にもつないでいただけるということですが、どのようなエリアに進出なさっているのでしょうか。
君島氏 : 海外拠点は世界16箇所にあります。中国、タイ、マレーシアなどの東南アジア、インド、メキシコ、そしてアフリカなどです。とくに中国とメキシコでは、日系のゼネコンの中で弊社がトップシェアを誇っており、現地に深く根付いたビジネスをしている点が強みです。ちなみに、弊社の売上高に占める海外事業比率は約20%で、ゼネコン各社の中でも高い水準となっています。
ますますグローバル化が進む時代において、「フジタの海外チャネルを使いながら、自社のアイデアやテクノロジーの実証実験に取り組んでみたい」という企業の方々、さらに、SDGsの実現が大きな注目を集める中で「世界を舞台に社会課題解決に挑戦してみたい」という企業の方々にとって、大きなチャンスをご提供できる可能性も存分にあるでしょう。
▲フジタ 海外事業紹介Webサイトより
――最後に、共創を検討なさる企業の皆さんへのメッセージをお願いします。
小林氏 : 私はシリコンバレーにもよくいって、あちらのベンチャー企業の情報収集をして共創の可能性も探っていますが、そこで感じるのは、米国のベンチャーは短期的な視野での資金調達とエグジットを求める姿勢が強いことです。ですが、私たちは建設や街づくりという長期的な視野に立った事業を行っているため、長期的な視点での価値の共創ができる企業と、深くコミットできればと考えています。
君島氏 : 日本の少子高齢化は、ある意味で世界の最先端を走っています。中国やタイ、マレーシアなども、これから日本と同じような高齢化社会を迎えます。したがって、日本の社会課題を解決する技術や事業を開発できれば、それは後に続く諸国で生じる同様の課題も解決できる可能性が高いでしょう。そのような価値の高い挑戦を私たちと一緒になさってくださる企業のかたをお待ちしています。
組田氏 : 建設業界は、単に建物を作っているだけではなく、その維持管理、住民との街づくり、環境への配慮など、扱う範囲が非常に広範囲です。したがって、技術が適応できる機会も非常に多く、意外なところでお持ちの技術が活用できるかもしれません。はまる部分があれば、大きなビジネスのチャンスにもなりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
取材後記
近年の建設業界の人手不足は新聞などでもたびたび報じられているが、それは東京オリンピック前の一時的な現象というより、日本社会の構造的な問題である。その問題に対してはさまざまな面でのイノベーションによる解決が求められていることを、強く実感させられる取材であった。
市場規模と波及効果の大きい業界だけに、フジタとの共創を通じて革新的な事業創造が実現できれば、それは共創パートナーにとっても大きなメリットをもたらしてくれるだろう。
※FUJITA Open Innovationについての詳細については↓こちらをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)