【税理士解説/研究開発と税制②】 オープンイノベーションで減税!?
前回に続き第2回目となる今回は、研究開発税制のうち、特別試験研究費税額控除制度(オープンイノベーション型)について、詳しくご紹介します。
オープンイノベーション型とは、研究開発税制の1つで、企業が研究機関や大学、民間企業などと共同試験研究や委託試験研究などを行った場合、その研究に要した費⽤等(特別試験研究費)に⼀定の控除率(20%、25%⼜は30%)を乗じた額を法⼈税額から控除できる制度です。
この制度は、企業間や、企業・大学間のオープンイノベーション推進のためのみならず、オープンイノベーションを通じて、特定企業だけでなく、日本全体の研究開発水準の向上や公益性に寄与するとの観点から、研究開発税制における特例制度として認められています。
上記図のとおり、一般的な研究開発税制の対象となる控除率(最大17%または14%)と比べて、オープンイノベーション型は控除率が最大で30%と、特に優遇されています。
また、前回紹介した「総額型」や「中小企業技術基盤強化税制」とは制度が異なり、試験研究に要した費用のうち、「オープンイノベーション型」の対象となる試験研究費を集計し、控除額を算定します。 「オープンイノベーション型」を適用する試験研究費は「総額型」や「中小企業技術基盤強化税制」と併用することができないため注意が必要です。
財務省が公表している「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書」では、様々な特例措置ごとの適用金額や適用件数等が集計・公表されており、当該報告書によると、下図のようにオープンイノベーション型の研究開発税制の適用金額(税額控除金額)及び適用件数ともに年々大きく増加しています。
平成29年度税制改正により、研究開発税制に「サービス開発」が追加され、オープンイノベーション型の対象範囲の拡大や手続きの簡素化が行われたため、平成29年度の結果が大きく増加したことを踏まえると、平成29年度税制改正以降の改正内容により、増加することが予想されます。
特別試験研究費とは
では、オープンイノベーション型の対象となる試験研究費とはどのようなものか、具体的に確認していきましょう。
オープンイノベーション型の対象となる試験研究費は、特別試験研究費と呼ばれ、「総合型」や「中小企業技術基盤強化税制」において計算の基礎とする試験研究費と区別して集計しなければいけません。
オープンイノベーション型の対象となる特別試験研究費とは、次に掲げる試験研究にかかる費用をいいます。
(1)特別研究機関等との共同試験研究・委託試験研究
(2)大学等との共同試験研究・委託試験研究
(3)新事業開拓事業者等との共同試験研究・委託試験研究
(4)民間企業・民間研究所・公設試験研究機関等との共同試験研究・委託試験研究
(5)技術研究組合の組合員が行う協同試験研究
(6)特定中小企業者等への委託試験研究
(7)特定中小企業者等(中小事業者等に限る。)から知的財産権の設定又は許諾を受けて行う試験研究
(8)希少疾病用医療品等の試験研究
このように、特別研究機関等とのオープンイノベーションを図った場合の試験研究費や、相手方に研究を委託した場合の委託費用に関して、本税制の対象として税制上の優遇を受けることができます。
オープンイノベーション型の控除率・控除上限・手続き
試験研究に要した特別試験研究費の額に一定の控除率(20%、25%または30%)を乗じて計算した金額を、当該事業年度の法人税額から控除できます。
なお、控除することができる上限額は、「総額型」や「中小企業技術基盤強化税制」による控除額とは別枠で、法人税額の10%相当額となります。
(注1)⼀定の資本関係のある者との連携は、オープンイノベーション型の対象外となります。
(注2)当初契約等において記載事項が充⾜しておらず、契約変更等により記載すべき事項を充⾜した場合、契約変更等の前に生じた費⽤であっても、その契約等に係るものであることが明らかであり、その費⽤発⽣と契約等変更⽇が同⼀事業年度であれば対象となります。
(注3)相⼿⽅による確認については、領収書等との突合までは求められていません。
(出典)経済産業省「特別試験研究費税額控除制度(オープンイノベーション型)」参照
このように、中小企業者等の民間企業とオープンイノベーションを図り研究開発を行う場合に比べ、特別研究機関や大学等とオープンイノベーションを図る方が、より税制上の優遇を受けることができることになります。
また、平成31年度改正より、「質」の高い研究開発に対する支援を強化する観点から、相手先の対象範囲の拡充(研究開発型ベンチャー企業の共同研究・委託研究や、要件を満たす民間企業等への委託研究を対象範囲に追加)と控除税額の上限の引き上げ(25%)が行われました。
手続き実施上の留意点
オープンイノベーション型を適用する際は、共同試験研究等を行うにあたり契約や協定により費用の分担や成果の帰属などの取り決めを行う必要があります。 さらに、相手方が国の研究機関等以外である場合、支出した特別試験研究費については費目別に整理し、適正な専門家(税理士・公認会計士等)の監査を受ける必要があるため、事前準備が必要となります。
専門家の監査は、いわゆる「会計監査」ではなく、契約又は協定の内容の確認・一定の書類との突合により、契約等に基づく支出であることを証明するものです。監査を受けるにあたり、支出内容の整理や、領収書等の提出が必要となるため、研究機関等との協力が必要不可欠です。
よって、オープンイノベーション型を適用する場合は、研究開発税制(「総合型」及び「中小企業技術基盤強化税制」)とは異なり、事前の準備や、適用に向けた契約書の締結などが欠かせないため、実務面において、特に注意が必要となります。
次回は、平成29年度税制改正により新たに研究開発税制に追加された「サービス開発」について、ご紹介します。 ビッグデータ等を活用した「第4次産業革命型の新たなサービス開発」を行う企業や、オープンイノベーションを活用し共同で開発をしている企業は、ぜひ、ご覧ください。
(コラム執筆:税理士法人山田&パートナーズ)
税理士法人山田&パートナーズは、総合型税理士法人として会計・税務・財務に関わる全ての業務に取り組んでおります。法人対応では、企業経営・財務戦略の提案に限らず、M&Aや企業再編アドバイザリー業務を強みとして提供しており、資産税対応では、相続税申告、事業承継対応を主軸業務としつつ、その関連業務を含めワンストップ対応を行っております。我々は、創業以来、様々なお客様のニーズにお応えするとともに、最新の情報・ノウハウを駆使し、付加価値の高いアドバイザリーサービスを提供しております。