未来のトレンドは「マイクロ化」!Scrum Ventures宮田氏がシリコンバレーの最新事情を解説
2013年創業、サンフランシスコ(シリコンバレー)を拠点とするアーリーステージのベンチャーキャピタル、Scrum Ventures。同社代表である宮田拓弥氏が米国のスタートアップトレンド、テック情報を共有し、活発にQ&Aやディスカッションがなされる参加型のイベント「Tackle!」(9/27開催)を取材しました。
主に大企業の投資部門や新規事業担当者などが参加する「Tackle!」は二部構成となっており、「第一部」では、シリコンバレーのスタートアップトレンドとして5社を紹介。後半の「第二部」では、Monthly Newsとして、電通とScrum Venturesが開催したSPORTS TECH TOKYO World Demo DayとY Combinator 2019夏のDemo Dayに登壇したスタートアップのサービスや技術が紹介されました。今回の記事では、それらを詳細にレポートしていきます。
▲宮田 拓弥氏
Scrum Ventures創業者兼ジェネラルパートナー。サンフランシスコをベースに、日米のテックスタートアップへの投資を行うベンチャーキャピタルを経営。これまでに、Mobility、Fintech、IoT、VR、コマース、ヘルスケアなど60社を超えるスタートアップに投資を実行している。
第一部 : Monthly Startups
前半はシリコンバレーのスタートアップトレンドとして、以下の5社が紹介されました。
【1】Caper(スマートショッピングカート)
バーコードとクレジットカードのスキャナーを搭載したショッピングカート。「こうしたサービスは、今後確実に来るカテゴリー」と宮田氏は言います。人手不足の解消のため、レジの自動化はニーズが高まっています。カメラやセンサーで感知して決済する方法に比べて、Caperの決済はシンプルかつ低コストなのが特長です。「テクノロジー的なマジックはないが、究極のソリューションになる可能性がある」(宮田氏)。
【2】Lilt(自動翻訳アプリ)
AIで音声認識し、自動翻訳するアプリ。米国では英語でインタビューした内容をiPhoneで聞き取ってリアルタイムで翻訳する、といったやり方が広がっていますが、Liltもそうした機能を提供するアプリです。
会場からは、「LiltはGoogle翻訳と同じなのでは?」という質問が。それに対し宮田氏は「その通り」と同意。ただし、「そこにコンテンツを仲間とシェアしたり、編集したりする機能を付加して、パッケージとして提供しているのがLiltの特長」だそう。自動翻訳のテクノロジー自体は簡単で、Googleを含めていろいろな会社で提供できます。ベーシックな翻訳だけを提供するGoogleに対して、スタートアップはそこへ縦や横にサービスを繋げていくのです。
【3】Vivoo(尿検査アプリ)
スマホの尿検査アプリ。申し込むと尿検査用のキットが送られて、検査を開始。結果はスマホと連動し、肝機能の数値などを基に健康アドバイスが受けられます。「尿検査や血液検査はみんながチャレンジするカテゴリー。ここ5年くらいで、こうしたスタートアップがどんどん出てきているが、アプローチとしては面白い」と宮田氏。
「企業の健康へのアプローチについて、米国の最新事情を教えてほしい」という会場からの質問に、「ヘルスケア関連のビジネスは2000年代前半から、ダイエットブームの中で出てくるようになったという背景がある。その流れを受けて、現在ではよりシリアスな病気に向けたビジネスがトレンドになっている」と宮田氏は解説しました。
会場からは、「VivooはBtoCに向いているのか、それともBtoBか?」という質問も挙がりました。シリコンバレーのインサイトをビジネスに活用しようという参加者の熱意が窺える質問です。――それに対し宮田氏は、「会社のベネフィットとして、例えば20代の社員に対して卵子凍結や精子凍結を支援するというような取り組みは流行っているが、健康データを集めるベネフィットというのは難しい。自分のデータを会社経由で管理されるのは抵抗感のある社員が多いからだ。成功するのはBtoCのほうではないか」と回答。具体的かつ実践的なコメントでした。
【4】BlockFi(仮想通貨ローン)
仮想通貨を使い、米ドルでローンが組めるサービス。なぜ仮想通貨なのかというと、まだ銀行がない国を対象としているからです。プライマリマーケットは南米であり、南アジア、アフリカなどでも簡単に組めるローンを提供していきます。銀行がない国では、キャッシュレスやローンのニーズが高くなるので、そこを狙ったサービス。米ドルであることもポイントで、例えばベネズエラから米国に送金するだけでマーケットになりますし、ビットコインで送金すれば、手数料もかからないところも魅力です。
「近年、日本でも外国人労働者が増えているから、ヒントになるかもしれない。日本でこのアプリがマッチするかはわからないが、米国では評価されている」と宮田氏は解説します。
【5】InCountry(データ保護規制)
InCountryは、データが移動した際に、各国のコンプライアンスに適合した形でデータを保存してくれるサービスです。「渋いけれど、とても大事なサービス」と宮田氏。
世界各国のデータ保護への規制は高まっています。ひところ話題になったEUのGDPRのように、欧州全体で統一的な規制が決まっていればまだいいのですが、多くの国では、個々で個人情報保護規制を設定しており、企業は海外進出するたびに規制対応に追われます。InCountryを利用すれば、海外進出にかかるコスト低減に貢献してくれるというわけです。
第二部 : Monthly News
後半は、Y Combinator 2019夏のDemo Dayと、電通とScrum Venturesが8月に開催したSPORTS TECH TOKYOのDemo Dayの模様を紹介。両者のピッチイベントは同日に開催されたそう。まずはSPORTS TECH TOKYOで選ばれたベンチャーの紹介から。SPORTS TECH TOKYOはスポーツをテーマにしたピッチイベントで、選ばれたのは「Misapplied Sciences」。
●Misapplied Sciences
https://www.misappliedsciences.com
見る角度によって違う映像が移されるモニターを提供。ユーザーをトラッキングし、そのユーザー向けにパーソナライズされた映像を見せる技術が搭載されています。例えば、同じスポーツを映すときでも、ロシア人が見るときはロシア人の見たい映像、日本人が見るときは日本人の見たい映像が見られます。理論上は10万人に違うものを見せられるようになっています。日本でもいくつかのスタジアムでこれから使えるようになるということで、楽しみです。
続いて、Y Combinatorのピッチイベントの紹介。イベントに参加した174社から、宮田氏が選りすぐりを紹介します。
ちなみに宮田氏にとって驚きだったのは、シリコンバレーで開催されたスタートアップのイベントにもかかわらず、中国企業のサービスやプロダクトをコピーする会社があったこと。前回のイベントではなかったとのことで、「今後は中国だけではなく、インドのコピーキャットも出てくるだろう。これまでシリコンバレーが一強だったが、世界中で新しいイノベーションが起きていると感じる」と宮田氏は語ります。
【1】Matagora (売り場Airbnb)
お店の棚を短期間、低コストで利用できるサービス。売り場のマイクロ化を実現します。商品を出店するとなると、数年単位で契約しないといけないのでハードルが高いですが、Matagoraを使えば、お店の棚を1カ月数万円で借りて、商品を並べられます。棚を貸すお店の側も、置く商品をあれこれ吟味する手間が省け、気軽にバリエーションを増やせるというメリットがあります。
【2】Simmer (料理レビュー)
食べログなどのグルメサイトが提供するのは、特定のレストランをピックアップして、ここは美味しいか、そうでないかを教えてくれるサービスですが、Simmerは「ビビンバを食べたいならどのレストランが美味しいか?」という観点で情報提供します。
「リアルのお店も、これからは食べに行くのではなく、届けられる時代になる」と言う宮田氏。ウーバーイーツが日本でも浸透しつつありますが、届けられるとなると、どのレストランに行くかではなく、どこの何が美味しいかが問題になります。Simmerはそのニーズを捉えるサービスです。「1つの店でメニューをデリバリーするのではなく、メインメニューはここ、アペタイザはここ、デザートはここ、という風にいろいろな店から美味しいものを選んでいくという、マイクロウーバーイーツ的なサービスがSimmerの目指す姿」。
【3】Globe (1時間Airbnb)
シャワーが浴びたい、電話会議したい、昼寝をしたい……そんなニーズに、1時間単位でAirbnbできるサービス。米国では1時間単位で部屋を借りられるサービスがないので、そのニーズに対応します。
お店をマイクロ化するMatagora、レストランをマイクロ化するSimmer、部屋のレンタルをマイクロ化するGlobe。「このトレンドは次に来る」と宮田氏は強調します。
【4】Revel (オンライン老人会)
年を取ると新しいコミュニティをつくりづらくなるものですが、Revelは高齢者が同じ趣味の人や、近くに住んでいる人と、ネット上でマッチングするサービスです。50代以上が対象。老人がネットでコミュニティづくりなんて、できるのかな? と思うかもしれません。でもインターネットができてから20年。黎明期に30代だった人は今、50代です。かつてと違い、老人だからインターネットが苦手だなんてことはありません。
「ネットサービスが出てきにくい高齢層に特化しているところが新しい。日本もこれから高齢者がどんどん増えていくので、ビジネスとしてあるのでは」と宮田氏は指摘します。
【5】Talar (冷蔵庫デリバリ)
Eコマースは家に商品を運んでくれる便利なサービスですが、受け取りをどうするかが課題です。Talarは配送者が冷蔵庫まで商品を届けてくれます。例えば、スマートロックでワンタイムキーを提供して、家に入ってもらって冷蔵庫に牛乳を入れてくれる。
他人を家にあげるなんて考えられない、と思うかもしれません。しかし「こういう未来は日本でもやってくる」と宮田氏は言います。「コンビニに行くのではなく、自分の家の冷蔵庫がコンビニになるというイメージ。デリバリーの延長線上でこういうのもあるのではないか」。
【6】Lumineye (災害救助レーダー)
レーザーを使って心拍を感知する技術です。119番して消防車が現場にかけつけたあと、そこに人が埋もれているのかどうかを、レーザーを使って検知できます。小型の安価なレーダーです。米国では警察官がカメラを装着していますが、これにLumineyeを加えれば、さらに精度が上がるのです。
【7】TrustedFor (LinkedIn 2.0)
https://www.trustedfor.com/welcome
可視化することによってレコメンデーションの信頼性を上げるというサービス。世界中の人がオンラインで繋がる時代になり、レビューサイトも山のようにありますが、どの人が発信する情報が信頼できるのかを判断するのは難しいもの。正しいのか間違っているのか判別しにくい情報が氾濫している現在、貴重な判断基準となってくれるかもしれません。
【8】Cloosive(バーチャルスタバ)
「これは確実に来るトレンド」と宮田氏が言うのがCloosive。小売りショップに事前オーダーして、モバイルで商品を受け取るサービスです。この種のサービスは、大規模店でないと難しかったのが、SME(中小企業)でも参入できるというところがポイントです。
【9】Tandem(Zoom2.0)
私たちの業務効率を大幅に挙げてくれたZoom。その2.0となるコミュニケーションツールです。宮田氏によると、「ZoomとSlackを合体したサービス」だそう。チャットでやり取りしていると、つい長くなって無駄な時間を消費してしまいがちですが、そこにフェイストゥフェイスのリアルタイムな会話ができるツールを加えて迅速化します。非同期と同期を連動させるインターフェースです。
【10】CTRL-labs(脳によるコンピューター操作)
フェイスブックが1000億で買ったという、スタートアップの技術。筋肉を動かす前の脳波を検知して動かす技術です。フェイスブックが開発するスマートグラスを装着して操作します。
【11】Sorting Robotics (AI仕分けロボット)
https://roboticsortingsolutions.com/
AIの画像認識とロボティクスを掛け合わせた技術。米国では一部の州で大麻が合法ですが、大麻は工場で商品化する際、実と枝を分けるのにとても手間がかかります。
そこでAIのロボティクスを活用、ベルトコンベアで大麻を流すと、コンピュータが画像から実だけを識別、分別してくれます。画像の識別だけならMRI診断などで既に採用されていますが、一歩進んで仕分けなど、人が行う作業にも使えるというのが素晴らしいです。
終わりに
最先端のベンチャーが集まるシリコンバレーのトレンドを、宮田氏がベンチャーキャピタルの視点から解説を加えた「Tackle!」。日本にいてはなかなか触れることのない生の情報に、参加者たちも興味津々の様子でした。
第二部で紹介されたY CombinatorのDemo Dayは、第一部で挙げたベンチャー5社よりもさらにカッティングエッジなベンチャーが集まる場。粗削りながら魅力あるサービスの数々を知ることができました。市場でまだ認知されていないベンチャーが多く集まるDemo Dayだからこそ、未来を読み解くカギになりそう。「これから来るのはマイクロ化」と指摘する宮田氏の指摘も、ビジネスのヒントになりそうです。
(編集:眞田幸剛、文:菅葉奈、撮影:加藤武俊)