【税理士解説/研究開発と税制③】 モノを作らない研究開発~サービス開発~
第3回目となる今回は、近年、新たに研究開発税制の対象に加わった「サービス開発型」の研究開発税制について、詳しくご紹介します。
平成29年度の税制改正により、AIやIoT、ビッグデータ等を活用した第4次産業革命による、新たなビジネス開発を後押しする観点から、研究開発税制の対象に「第4次産業革命型」のサービス開発のための試験研究に係る一定の費用が新たに追加されました。
第4次産業革命と呼ばれるAI、IoT、ビッグデータ、RPA等のデジタル技術は、急速な発展により、生産、販売、消費といった経済活動に加え、健康、医療、公共サービス等の幅広い分野や、人々の働き方、ライフスタイルに影響を与えています。
このような状況において日本企業が競争力を維持・強化するためには、各企業がこの技術革新を的確に捉えて付加価値の高い財・サービスを生み出すことが重要と考えられています。
税制面において「サービス開発」を積極的に支援する制度が追加されたため、企業は、自社の提供するサービスの開拓・向上を目指しつつ、本税制の適用を検討すべきです。
サービス開発の具体例
「研究開発税制の対象となるサービス開発」の想定される具体例として、経済産業省から以下の4つが公表されています。
■【地域を自然災害から守るサービス】
ドローンを活用して収集した画像データや気象データ等を組み合わせて分析することで、より精緻でリアルタイムな自然災害予測を通知するサービスを提供
■【農家を支援するサービス】
センサーによって収集した、農作物や土壌に関するデータや気象データ等を組み合わせ分析し、農家が最適な農作業をできるような農業支援情報を配信するサービスを提供
■【各個人に応じたヘルスケアサービス】
各個人の運動や睡眠状況、食事、体重、心拍等の健康データを分析することで、各個人に最適なフィットネスプランや食生活の推奨や、病院受診勧奨を行うサービス
■【観光サービス】
ドローンや人工衛星等を活用して収集した画像データや気象データ、生態系のデータ等を組み合わせて分析することで、高付加価値の観光資源だが発生頻度の低い自然現象等の発生を精緻に予測するサービスを提供
〔出典〕 経済産業省産業技術環境局技術振興・大学連携推進課「研究開発税制の概要」
また、上記に限らず業種や開発するサービスに縛りはなく、幅広く多種多様なサービス開発が、研究開発税制の対象として認められています。
しかし、「これは我が社のサービス開発だ!」と言って、サービス開発に係った費用が無条件に税額控除の対象となるわけではありません。 税制上は、サービス開発において一定のプロセスを経ることが求められ、また、対象となる試験研究費の範囲が定められているため、慎重に判断する必要があります。
では、その一定のプロセスや範囲など、留意点を確認しましょう。
サービス開発に係る一定のプロセス
サービス開発のうち本税制の対象となるサービス開発は、対価を得て提供する新たな役務の開発で「一定のプロセスを経たもの」です。具体的には下図の通り ①データの収集、② データの分析、③ サービスの設計、④ サービスの適用 の4つのプロセスを経る必要があります。
なお、サービス開発の全てのプロセスを自社で実行しなければいけないわけではありません。そのプロセスの一部を外部に委託することも可能です。
例えば「データの収集は他社に依頼して、分析から自社で始める」という場合や「データの分析のみ他社に委託する」という場合でも、一定のプロセスを経たものに該当する、と解されています。
試験研究費の範囲
■試験研究費の意義
サービス開発型の研究開発税制の対象となる試験研究費とは、対価を経て提供する新たな役務の開発で、一定のプロセスを経て行われるものに係る試験研究のために要する費用で、次に掲げるものをいいます。
①その試験研究を行うために要する原材料費、人件費 〔情報解析に必要な確率論および統計学に関する知識並びに情報処理に関して必要な知識を有すると認められる者(情報解析専門家)でその専門的な知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る〕 および経費 〔外注費については、外注先での原材料費および人件費に相当する部分並びに試験研究を行うために要する経費(外注費を除く)に相当する部分に限る〕 。
②他の者に委託して試験研究を行う、その法人の試験研究のために委託を受けた者に対して支払う費用(①の原材料費、人件費および経費に相当する部分に限る)
上述した通り、サービス開発型の研究開発税制の対象となる人件費は、情報解析専門家に係るものに限られ、製品開発型の研究開発税制とは異なるため注意が必要です。
また、人件費以外の原材料費と経費の具体例として、原材料費としてはデータ購入費用、経費としては情報の収集・蓄積に使用する機器に係る費用(センサーやデバイス等購入費、償却費)、解析に使用する機器に係る費用(コンピューターやソフトウェア等の購入費、償却費)等があげられます。
実務上の留意点
今後、企業が検討・判断すべきことは、自社で行っている研究開発活動が、そもそも、製品開発型の研究開発活動に該当するのか、サービス開発型の研究開発活動に該当するのかを検討し、サービス開発型の研究開発活動に該当すると判断した場合は、上述した4つのプロセスを経たサービス開発になっているのかを判断する必要があります。
今回紹介したように、サービス開発型の研究開発税制が新たに、研究開発税制の対象に加わったことにより、当該税制を適用することができる研究開発の範囲は大きく広がり、企業としては嬉しい反面、検討過程において、判断に迷う場面も多いのではないでしょうか。
そのような場合は、税理士や公認会計士に、適用可能性についてご相談ください。
(コラム執筆:税理士法人山田&パートナーズ)
税理士法人山田&パートナーズは、総合型税理士法人として会計・税務・財務に関わる全ての業務に取り組んでおります。法人対応では、企業経営・財務戦略の提案に限らず、M&Aや企業再編アドバイザリー業務を強みとして提供しており、資産税対応では、相続税申告、事業承継対応を主軸業務としつつ、その関連業務を含めワンストップ対応を行っております。我々は、創業以来、様々なお客様のニーズにお応えするとともに、最新の情報・ノウハウを駆使し、付加価値の高いアドバイザリーサービスを提供しております。