羽田空港跡地に誕生する「HANEDA INNOVATION CITY」が実証実験の場に!
年間利用者数8,700万人以上(※)と、国内外から人が集まる東京の空の玄関口・羽田空港の周辺エリアに、2020年夏、新たな街が誕生する。それが、「HANEDA INNOVATION CITY」(羽田イノベーションシティ、以下HICtiy)だ。
東京都大田区に位置し、“羽田空港跡地”と呼ばれながら地域の人々が古くから暮らしを営んできたこの場所は、「文化」と「先端」の2つのコア産業を融合し、新たな価値を創造する街に生まれ変わるという。
京浜急行電鉄空港線・東京モノレール空港線「天空橋駅」に直結し、東京ドームの約1.25倍の敷地面積を誇るこの街のオープンに先立ち開催されるのが、全国の法人・個人から事業アイデアを募集するプログラム「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」(1/14応募締切)。
「街との新たなタッチポイントの創出」、「ここでしかできない賑わいを生み出す体験価値」、「先端技術を活用した新たな社会価値創造」という3つのテーマにおける共創アイデアを募り、選考後はインキュベーション期間を経て、2020年夏頃の開業に向け実証実験の準備を進めていく。
運営は、経済産業省 関東経済産業局・大田区・羽田みらい開発が務め、実装パートナーは多種多様なリーディングカンパニー7社(鹿島建設・大和ハウス工業・京浜急行電鉄・日本空港ビルデング・ソフトバンク・エイベックス・京セラ)が担当する。
このプログラムの開始に伴い、経済産業省 関東経済産業局・門田氏、大田区 産業経済部・臼井氏、羽田みらい開発/鹿島建設・加藤氏、日本空港ビルデング・志水氏の4名にインタビューを実施。「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」の立ち上げの背景や活用できるリソース・アセット、目指す世界観を伺った。
※「羽田空港 旅客ターミナル利用実績」(2018年)より、国内線・国際線の旅客人数の合計値。
<写真右→左>
■経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業技術革新課長 門田 靖氏
大手企業や中堅・中小企業、スタートアップのハブとなるオープンイノベーション・プラットフォームを立ち上げ、多様な組織間連携が次々と創出されるイノベーションエコシステムの形成を目指す関東経済産業局に在籍。1都10県の管轄エリアをはじめとして、全国の経済産業局と連携しながらオープンイノベーション推進のサポートを手がけている。
■大田区 産業経済部 産業担当交流課長/連携推進担当課長 臼井 正一氏
2017年に産業経済部に異動し、現職に着任。大田区のメイン産業である「ものづくり」と「商業」をサポートする。また、羽田空港の跡地整備を担当する「空港まちづくり本部」も兼務している。
■羽田みらい開発株式会社 SPC統括責任者/鹿島建設株式会社 開発事業本部 加藤 篤史氏
鹿島建設の開発事業本部にて、これまでに数々の都市開発を担当。現在は、各社が出資する「羽田みらい開発」のSPC統括責任者として、HICityの企画・開発・施設整備から将来的な運営計画策定までを担当している。
■日本空港ビルデング株式会社 事業開発推進本部 事業開発部 担当部長 志水 潤一氏
入社後、ターミナルビル施設の物販・飲食・サービス機能の開発・営業管理などに従事。2016年、羽田空港において人とロボットの共創モデルを構築する「Haneda Robotics Lab」を立ち上げ、国交省および経産省と連携しながらプロジェクトを遂行するなど、社外と連携してイノベーション施策を担当している。
街の2大テーマは「先端」と「文化」、あらゆる人々の交わりを促進
——「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」は官庁・地域・企業が連携する壮大なプロジェクトだと思います。まずは、2020年夏にオープンする「HANEDA INNOVATION CITY」の事業構想をお聞かせいただけますか?
羽田みらい開発・加藤氏 : HICityは、「文化」と「先端」の融合が最大のテーマです。我が国が育んできた古き良き日本文化と最先端のテクノロジーを掛け合わせて、新たな価値を創造していく。
このテーマに基づき、具体的にどういった産業を取り入れていくかのは、2016〜2017年に大田区が実施したコンペにてよって決定されました。このコンペに当選し、名乗りを上げ、当選したのが当社(鹿島建設)を代表企業とする9社によるコンソーシアム(※)です。
※コンソーシアム構成企業……鹿島建設・大和ハウス工業・京急電鉄・日本空港ビルデング・空港施設・JR東日本・東京モノレール・野村不動産パートナーズ・富士フイルム
具体的な構想として、「先端」の分野では“先端モビリティ”、“健康医療”、“ロボティクス”の3つの柱を設け、先端医療の研究センターや自動運転技術の開発をする先端モビリティセンター等を設置します。
また、「文化」の分野では、”モノ”よりも”コト“の提供として、体験型の施設を備えます。ライブ鑑賞が可能な3,000人規模を収容するイベントホール((仮称)Zepp Haneda(TOKYO))や日本文化・食文化の発信施設等の整備を予定しています。
これらは「文化」と「先端」の融合という大きなお題の中でも、社会的にニーズが高いもの、大田区との調和性が期待できるものに着目した結果、導き出された構想です。
日本空港ビルデング・志水氏 : 今のお話に付け加えて、弊社では空港機能を有効活用することを意識しました。例えば、「先端」で挙がったスマートモビリティとロボティクスは、数年前から羽田空港で実証実験を開始しており、案内ロボットや清掃ロボットはすでに実験を終えて導入ステージに入っています。
こういった空港での実例をHICityに落とし込むなど、それぞれの相乗効果を期待できればとの思いがあります。
▲商業・オフィスなどからなる大規模複合施設となるHICity。グルメ、日本文化、ライブイベントといった体験を届ける一方、研究開発施設、先端医療研究センター、会議・研修施設なども整備される。
日本でも類を見ない試み「スマートシティ」のモデルにもなり得る
——このような事業構想がある中で、「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」が立ち上がった背景についてお聞かせください。
関東経済産業局・門田氏 : 関東経済産業局では平成28年度から本格的にオープンイノベーションを推進の取組に着手し、テクノロジーを起点としたニーズとシーズで企業間の連携を創出するという仕掛けが中心でした。これはこれで重要な取組ですので継続しつつ、一方で、テクノロジー起点に限らず、「未来の街づくり」や「社会的価値を創造するサービス」分野等、幅広いシチュエーションにおいて、オープンイノベーションを通じて組織同士をお引き合わせできる可能性があり、改革が必要ではないかと考えるようになりました。そんな折、大田区様から本プロジェクトのお話をいただき、我々の目指す方向性とマッチしたという流れです。
大田区・臼井氏 : 大田区には、ものづくりを営む企業が3,000を超えて集積しています。その多くは中小製造業であり、これまでは受託加工をメインに発展してきましたが、世の中が変化する中で、それだけでは先行きが不透明な現状があり、ビジネス環境を広げる必要性がありました。
そういった背景から、HICityというプラットフォームを活用して、大田区の企業発展を推し進めていきたいと考えました。
——日本中が注目するプロジェクトになりそうですが、「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」の概要や目指す世界観をみなさまに伺いたいです。
関東経済産業局・門田氏 : 今回のプロジェクトはHICityを舞台に、日本の新たな価値創造を通じて、多様な企業の成長実現と大田区の地域活性化を目的として、全国の中堅・中小企業やスタートアップのみなさんから事業創造アイデアをご提案いただくことなります。
これまで我々が関わってきた1組織に対する複数からのご提案ではなく、大田区はじめ、複数企業がパートナーとして参画しますので、「N対N」のスタイルのオープンイノベーションにチャレンジしていけることに、非常に高い期待を持っています。
大田区・臼井氏 : HICityは、単純に事業者のみなさまが入居するだけでなく、人や情報が交差し、新しい価値が誕生するエコシステムを作りたいとの思いがあります。そのための仕掛けとして展開するのが、幅広く事業アイデアを公募する「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」です。
これは、公民連携のオープンイノベーションであり、我々運営者と入居する事業者のみなさま、そしてHICityの魅力に共感してくださる方々を大きく巻き込みながら、前例のない価値や新たなビジネスチャンスを地域のみなさまに体感していただきたいとの願いがあります。
大田区としても、これほど大規模なチャレンジは初めてで、すべてが手探りではありますが、羽田みらい開発さんと連携しながら作り上げていきたいと意気込んでおります。
羽田みらい開発・加藤氏 : 日本では、空港に隣接する街づくりの構想はかねてからあるものの、実際に実現した例は極めて少ない。そういった背景や、国が推進しているスマートシティ公募において重点事業化促進プロジェクトのお墨付きをいただいたことからも、HICityは最先端のスマートシティのモデル地域にもなり得ると考えます。
都市のど真ん中ではできないことでも、制約条件の少ないこのプロジェクトなら大歓迎です。斬新なビジネスアイデアの実験・実証フィールド、テストベットとして、ぜひ本プロジェクトを大いに活用していただきたいですね。
日本空港ビルデング・志水氏 : このプロジェクトを通じて、空港エリアのにぎわいがHICityの発展につながり、さらに周辺地域の活性化にもつながるような良い循環を作れたらと考えています。この街での最先端事例が常に発信され続けることで、持続的に価値が生まれる起爆剤のような場所にしたいですね。
世界とのつながりに技術提供も。参加企業が得られるメリット
——応募企業に向けて、みなさまが提供できるリソースや得られるメリットについて具体的にお聞かせください。
羽田みらい開発・加藤氏 : 今回、HICityに出資する企業の内の4社(鹿島建設、大和ハウス工業、京浜急行電鉄、日本空港ビルデング)に加えて、「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」の実装パートナーであるソフトバンクさん、エイベックスさん、京セラさんにもご支援いただける体制を整えています。
通信インフラやエンターテインメントなど、各業界のリーディングカンパニーがバックアップさせていただきますので、ぜひこの場を活用して、共に世界を驚かせるような事業アイデアを実現させましょう。
日本空港ビルデング・志水氏 : リソースのご提供としては、我々が羽田空港で実施しているイノベーションプロジェクト「Haneda Robotics Lab」における連携企業とのつながりを活かした技術提供等を考えています。
また、将来的なメリットとして、今回の「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」で生まれた事業アイデアを羽田空港内で展開できる可能性も考えられます。その際は、弊社が率先して支援させていただきます。
大田区・臼井氏 : 大田区の最大の強みである集積したものづくり産業の技術――専門的には基盤技術と言って製造工程の基礎的部分を担っているものなのですが、ハードウェアを製作する必要性が出てきた場合は、大田区の専門企業とのマッチングをさせていただきます。また、大田区の持つあらゆる社会資源をご提供できるよう努めます。
——最後に、共創パートナーとなり得る方々へのメッセージをお願いします。
関東経済産業局・門田氏 : 今回のプロジェクトは1社の単独応募だけでなく、スタートアップや個人の方と組んだチームでの応募も可能です。これまでは受託型のスタイルで事業展開されていた方々にも、自己変革力や提案力を発揮していただける場となっています。今後の新たな政策のヒントとなるような素晴らしいアイデアをお待ちしています。今回のチャレンジが、提案者のさらなる成長につながるよう全面的にサポートしていきます。
大田区・臼井氏 : 都心部と違って、大田区は働きやすさと暮らしやすさが良いバランスで成り立っていると思います。この地域で暮らす人々や羽田空港を利用する人々がより楽しくなる、便利になる、そんな暮らしをアップデートするキッカケがこのプロジェクトから生まれることを願っています。
羽田みらい開発・加藤氏 : この街の最大のメリットは、羽田空港を通して日本各地・各国とつながっていること。ここで実施された事例は、あらゆる地域に情報発信され、世界中とダイレクトにつながることができます。この利点を最大限に活用していただきたいですね。
日本空港ビルデング・志水氏 : 労働人口の減少など何かと暗い話題が多い中で、本プロジェクトが日本に活力を与える好機になればと思っています。我々が気づけない視点を持った方々から、日本を活性化するようなアグレッシブな企画をぜひお待ちしております。
▲HICityは羽田空港から徒歩圏内に位置している。HICityだけではなく羽田空港での展開を絡めたシナジーのあるアイデアも歓迎だという。
取材後記
“羽田空港跡地”という広大なフィールド、そして2020年に誕生する新しい街を舞台に、官民連携でオープンイノベーションに挑む「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」。本プロジェクトのポイントは、公民連携の大規模なオープンイノベーションと世界中の人々の交差点である空港の機能をフルに活かせる点だろう。日本のみならず、世界各国との強固な関係性構築にもつながり、世界進出の可能性も秘めている。千載一遇のこのチャンスをぜひつかみ取ってほしい。(説明会開催:2019年12月19日、応募締切:2020年1月14日、BUSINESS BUILD DAY開催:2020年1月31日〜2月1日)
(編集:眞田幸剛、取材・文:小林香織、撮影:古林洋平)