「みんなが自分らしくつながる未来」を生み出す――東京メトロ、第4期アクセラレータープログラム始動!
計り知れないほどのヒト・モノ・カネが日々行き交い、リアルタイムで刻々と変化を続ける街・東京。そんな東京の都市機能を支え、膨大な人々の生活やビジネスに貢献してきたのが、 東京地下鉄株式会社だ。
同社は2016 年より、新規事業開発を目的とした共創プログラム「Tokyo Metro ACCELERATOR」を主催している。過去3回の開催を通じて、スタートアップをはじめとした多くのパートナー企業と共創を実施。鉄道事業の枠を超えた、事業アイデアの実現に精力的に取り組んでいる。
そしてこの度、第4期目のプログラムが始動。今回は「CONNECTION(つながり)」「WORK(働き方)」「WELLNESS(健康)」という3つの募集テーマを掲げている。
さらに、共創実現にあたってパートナー企業は「豊富な顧客接点・データ」、「首都圏でのPR機会」、「パートナー・資金提供」をリソースとして活用することができる。(応募締切は2020年1月13日)
都市全体を支える同社が「一人ひとり」という、個人にフォーカスを当てた新規事業の創出を目指すのはなぜなのか?その先に見据える社会像とは、どのようなものなのか?――本プログラムを運営する「企業価値創造部」のメンバー に話を聞いた。
<前列 左→右>
■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 課長 池沢聡氏
新規事業企画担当の課長として、プログラムを牽引。またICT戦略を担当した経験から、新規技術やICTサービス領域に関しての知見も本プログラム運営に活かしている。
■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 課長補佐 瀬谷麻里恵氏
建築部門において駅改装の設計・工事を経験後、2016年より現部署に配属。ブース型の駅ナカシェアオフィス「サテライトオフィスサービス」などの新規事業を企画・運営するなど、新規事業開発の実績を持つ。
<後列 左→右>
■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 課長補佐 吉田斉能氏
他社のエンターテイメント事業や新規事業などの業務を経験後、ドキュメンタリー映像制作ベンチャーにクリエイター兼プロデューサーとして参加。2019年に東京地下鉄に入社し、現部署に配属。鉄道事業から遠い世界に身を置いた経験を活かし、本プログラムをサポートする。
■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 森信治氏
2014年、東京地下鉄入社。土木建築物の維持管理部門を経験後、昨年度の本プログラムで応募企業のサポートを行う「コーディネーター」に抜擢。2019年4月に現部署に配属。
■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 天野純一氏
大手メーカーでの営業職、イギリス留学、映画会社勤務などを経て、東京地下鉄に入社。駅員業務などを経て、2016年から現部署に配属。社内提案制度「メトロのたまご」の事務局も手がける。
「CONNECTION」「WORK」「WELLNESS」のテーマを通じて、東京を活性化させる。
――東京メトロでは2016年から「Tokyo Metro ACCELERATOR」と題する共創プログラムを年一回開催されています。この度、その4期目を始動されるとのことですが、改めて本プログラムの趣旨を教えてください。
森氏 : 東京メトロでは、これまで鉄道事業を主軸にして、東京圏の都市機能を支えてきました。しかし、2030年頃から東京圏は人口減少が始まると予測されていて、それに伴い、鉄道の乗客数減少も見込まれています。
そのため東京メトロでは新規事業開発によるビジネス領域の拡大が急務です。そこで共創プログラムを開催して、スタートアップ企業などの外部パートナーからアイデアを募り、未来の東京圏を支える事業を共創したいという狙いがあります。
池沢氏 : 「Tokyo Metro ACCELERATOR」は過去3回開催されていて、昨年は3社のスタートアップ企業のアイデアを採択しました(※)。
クラウドファンディングを通じた、誰もが東京のまちづくりに参加できるしくみの展開(株式会社エンジョイワークス)、 デジタル観光ツアーアプリ「SpotTour」を利用した、東京の新たな魅力の発見につながるお出かけスポットの紹介(株式会社ボクシーズ)、 「Wovn.io(ウェブサイト多言語化ツール)」を利用した、お客様に提供する情報の高品質かつ迅速な多言語化(Wovn Technologies株式会社) と、いずれも鉄道事業の枠を飛び越えたアイデアであり、今年はそうした点をさらに加速させたいと考えています。
――今年度は「みんなが自分らしくつながる未来へ」というコンセプトを掲げていらっしゃいます。このコンセプトが生まれた経緯について教えてください。
森氏 : 東京メトロのグループ理念は「東京を走らせる力(Keeping Tokyo on the Move)」です。今回コンセプトを策定するにあたっても、この理念に立ち返り「どうすれば”東京を走らせる”ことができるのか」という点からスタートしました。
そして議論を重ねていくうちに、東京を支えているのは「人」であり、その「人」が活き活きと毎日を送ることで、街が活性化していくのではないかという考えに至りました。
一方で、社会全体の多様化が進んでいくなか、いまや「自分らしくある」ことは、生き方や働き方を活性化するうえで重要な要素です。そこで「人」が「自分らしくある」ことにフォーカスを当て、今回の「みんなが自分らしくつながる未来へ」というコンセプトが決まりました。
――そうしたコンセプトを軸にして、今回は「CONNECTION」「WORK」「WELLNESS」という募集テーマを設定されています。このテーマに込めた想いもお聞かせください。
森氏 : まず「CONNECTION」についてですが、東京メトロは鉄道事業を通して、東京圏をつなげる役目を果たしています。今回のプログラムではこの「つなげる」を深化させ、東京メトロがより多くの「ヒト」や「コト」とつながる事業を創出したいと考えています。
つぎに「WORK」ですが、東京メトロはこれまで通勤や帰宅といった側面から「働く」に貢献してきました。しかし、近年リモートワークやフレックスの一般化など、ワークスタイルの多様化が進んでおり、通勤や帰宅に縛られる必要がなくなりつつあります。そこで今回のプログラムでは、現代的な働き方をサポートする事業についてもアイデアを求めることになりました。
池沢氏 : 最後のテーマは「WELLNESS」です。ここでの意味は、単に体の健康だけではなく、こころの健康や生活の幸福度、自己肯定感の実感など、人が健康的に生きるために必要なもの全てを指しています。
天野氏 : 鉄道事業は、安全に、たくさんの人を、時間どおりに運ぶことを求められるため、無駄を省いていく傾向にあります。ですが、これから社会が成熟度を増していくなかで、こころの豊かさやゆとりは今以上に求められるはずです。そうした部分を、新規事業を通じてサポートしたいというのが「WELLNESS」をテーマにした由来です。
東京メトロが「個人の幸せ」「豊かさ」を創出する意義
――これら3つのテーマをもとに、皆さんはどのような事業を実現したいとお考えでしょうか。
森氏 : 私は「WORK」のテーマから、自由な働き方をサポートする事業が生まれることを望んでいます。いまや毎日決まった時間に出勤し、決まった時間働くというワークスタイルに疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。そうした方々が可能な限りルールに縛られず、自分らしい働き方を実現できるアイデアを募りたいですね。
瀬谷氏 : 私はすべてのテーマに興味を持っています。というのも、この3つは「ゆとり」という部分で共通していると思うからです。新しいものは「余裕」がなければ生まれないと思います。パートナーの方にはそうしたイメージを持ってこのプログラムに臨んでいただけると嬉しいですね。
吉田氏 : 「人生100年時代」という言葉もあるように、私たちはこれから、働くことを終えた後も長い時間を過ごすようになります。そうした長い時間を豊かにするような事業を創りたいですね。
東京メトロの路線は、東京の中心を絡み合うようにして通っています。つまり、あらゆる人がひしめき合って働いている「戦いの場」を、東京メトロは日夜走り続けているわけですね。そうした「戦いの場」を象徴するような企業が、「戦い終わったあと」を豊かにするような事業を提供するのは、大変意義深いのではないでしょうか。
池沢氏 : 私はどのテーマでもよいのですが、ホッと幸せになれるようなサービスがよいと考えています。やはり東京メトロのユーザーのなかには、日々忙殺されている方も多いかと思います。そうした方々が、ふと電車の中だったり、街中だったりで一息つけるようなアイデアをご提案いただけると嬉しいですね。
天野氏 : 個人的には、どのような事業を創りたいというよりも、今回のプログラムを通して「多様な価値観の共生」をメッセージとして発信したいですね。近年、国連の「世界幸福度報告」など、「幸せとは何か」という本質的な問題を問い直す取り組みが、世界規模で進んでいます。
そうした社会のなかでは、多様な人々が共生し、互いが互いの味方になれるような価値観が求められているように思います。なので、今回のプログラムでは、そうした価値観を具現化できるようなアイデアも募りたいですね。
「熱量」の高いプログラム。応募企業を社員が徹底的にサポート。
――今回のプログラムではパートナー企業に提供できるリソースとして、「豊富な顧客接点・データ」、「首都圏でのPR機会」、「パートナー・資金提供」の3つを挙げられています。例えば、東京圏9路線・179駅にものぼる顧客接点など、いずれも東京メトロのブランドや規模感を活かした魅力的なリソースです。その中でより特徴的なものがあれば教えてください。
森氏 : 今年度のプログラムから、私たちが所属する企業価値創造部が運営している事業を、提供リソースとして付け加えています。瀬谷が事業立ち上げ〜運営に関わっている子ども向けロボットプログラミング教室「ProgLab」、アウトドアフィットネスクラブ「greener」、キッズルーム併設ワークスペース「room EXPLACE」の3つの事業です。
瀬谷氏 : 駅など不特定多数のユーザーとのタッチポイントに加えて、「子供」や「子供を持つ親」など、セグメントしたユーザーとも接点が持てるようになったのが強みです。また、これらの事業は企業価値創造部が運営しているので、比較的アイデアが反映しやすいというメリットもあります。
――リソース以外にも、参加するパートナー企業にとってメリットになるものはあるでしょうか。
森氏 : 「熱量の高さ」は大きなメリットになると自負しています。本プログラムの特徴は、書類・面談審査を通過した企業には東京メトロの社員が「コーディネーター」として参加し、アイデアのブラッシュアップや社内調整をサポートするほか、最終選考のプレゼンも共同して行う点です。「コーディネーター」は社内公募により選出されているため、おのずと熱量の高い社員がサポートすることになります。
天野氏 : 東京メトロは社会インフラを支える企業なので、「社会課題の解決」といったテーマと親和性が高いのも特徴です。もちろん事業化ができることは前提ですが、社会課題の解決を通して世の中にインパクトを与えたいという企業には、大きなメリットを提供できると考えています。
――それでは、応募を検討しているパートナー候補に向けて、メッセージをお願いいたします。
瀬谷氏 : 新規事業開発は「仲間を増やしていく」ことだと思います。事業のパートナーだけではなく、これまでは出会えなかったユーザーなど、多くの人々を仲間にしながら事業を広げていくのが理想です。今回のプログラムでは、その仲間になってくださるパートナーを求めたいと思います。
吉田氏 : 東京メトロは「都市機能を支える」ことを目的にした鉄道会社です。そのため、そこで成果を残した新規事業は他の都市にも転用できる可能性があります。東京を起点として、世界中のあらゆる都市に発信できるような事業アイデアをご提案いただけると嬉しいですね。
池沢氏 : その意味では、「”東京”メトロ」という名前にとらわれず、東京以外の企業からも応募いただきたいですね。ぜひ互いの地域を活性化できるアイデアを具現化していきましょう。
天野氏 : 都市の課題は、世界中に共通する問題です。いま世界では「都市化」が進行していて、それに起因する問題も噴出しています。そうした広い視野からプログラムに取り組み、ゆくゆくは大きな成果を残せるパートナーの方にご応募いただけるといいですね。
森氏 : 今年度は「一人ひとりの幸せ」や「自分らしさ」にフォーカスを当てています。なので、そうした考えに感度の高い企業なら、価値の高い事業を共創できるのではないかと思います。社会のなかの一人ひとりを豊かにするアイデアを、共に形作っていけることを期待しています。
取材後記
まもなく日本中が待ちわびた「2020年」を迎える。東京は世界中から注目を集め、ますます活況と華やかさを極める一年となることだろう。しかしその一方で、2020年以降に直面せざるを得ない問題も山積している。特に人口減少、都市一極集中、多様な価値観や生活スタイルの流動性 といった問題は、社会構造を大きく変化させており、その動きの中で人々のこころからゆとりや豊かさを奪いつつある。
今回のテーマと深い関わりを持つ「幸福度」や「自己肯定感」といった価値観は、今後ますます重要度を増していくだろう。今回のアクセラレータープログラムの魅力は、そうした社会的に関心が高まるテーマについての事業開発に取り組める点だ。東京という広大なフィールドを舞台に、人々の「自分らしく」をサポートし、あらゆる観点から豊かな社会を実現する事業アイデアが求められている。
※『Tokyo Metro ACCELERATOR 2019』の詳細はコチラ
■募集テーマ
①CONNECTION(つながり):新たなつながりを通じた、社会・地域の発展
②WORK(働き方):誰もが自分で選択できる働き方へ
③WELLNESS(健康):健康の維持・促進を通じ、社会全体の活力を引き出す
■提供リソース
(1)豊富な顧客接点・データ
(2)首都圏でのPR機会
(3)パートナー・資金提供
■応募締切
2020年1月13日(月)
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)