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リディラバ・安部氏×プロノバ・岡島氏――VUCA時代に求められるリーダーシップを養うために、意思決定の場数を踏め

リディラバ・安部氏×プロノバ・岡島氏――VUCA時代に求められるリーダーシップを養うために、意思決定の場数を踏め

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社会課題の解決に取り組む株式会社Ridilover(リディラバ)は12月5日、「VUCA時代に求められるリーダーシップとは ―社会課題がリーダーを育てる!企業におけるリーダー育成の未来―」と題した特別対談セミナーを開催。同セミナーは2部構成で実施された。

前半はゲストでリーダー育成のプロ、株式会社プロノバ代表取締役社長の岡島悦子氏とリディラバ代表の安部敏樹氏との対談、後半は同社の手がける、社会課題を通じ人材育成を行う「フィールドアカデミー」の実例などが紹介された。

対談では、2人の間で「複雑性が高く不確実な時代(=VUCAの時代)で求められるリーダーシップの条件、企業はリーダー人材をどう育成していくか」などが活発に議論された。以下に対談の詳細をレポートする。

<登壇者>

▲一般社団法人リディラバ、株式会社Ridilover代表 安部 敏樹(あべ としき)氏

社会問題をツアーにして発信・共有する集まり「リディラバ」を大学在学中の2009年に設立。300種類以上の社会問題のスタディツアーの実績があり、これまでに1万人以上を社会問題の現場に送り込んだ。また中高生の修学旅行や企業研修などにもスタディツアーを提供。総務省主催「第1回起業家甲子園」最優秀賞、東京都主催「第10回学生起業家選手権」優秀賞、観光庁主催「第2回若者旅行を応援する取組表彰」観光庁長官賞(最優秀賞)など受賞多数。

※安部氏によるeiicon ProBCONブログ https://baron.eiicon.net/u/6387

▲株式会社プロノバ代表取締役社長 岡島 悦子(おかじま えつこ)氏

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2007年、プロノバ設立、代表取締役就任。2014年よりアステラス製薬株式会社 社外取締役(退任)、株式会社丸井グループ 社外取締役。2015年よりランサーズ株式会社 社外取締役、株式会社セプテーニ・ホールディングス 社外取締役。2016年より株式会社リンクアンドモチベーション 社外取締役。2018年より株式会社ヤプリ、株式会社FiNC Technologies、株式会社ユーグレナ 社外取締役。2019年より株式会社マネーフォワード社外取締役。

これからのリーダーは、現状のモデルとは大きく異なる。

岡島氏が現在、手がけているはサクセッションプランニング(後継者計画)であり、大きな関心を抱いていることとして「誘蛾灯」だと紹介された。誘蛾灯は文字通り蛾を呼び込む灯だが、この場合の蛾とはリーダー候補人材を指し、美しくて目立つ存在である蝶と対比させた。

岡島氏は「これからのリーダー人材は、これまで理想とされてきたモデルとは大きく異なる。ビジネスモデルの構築や破壊的イノベーションを考えられる人を探さなくてはならない。その意味で、現状のコンピテンシーで綺麗に五角形を描くような人はまったく求めていない。従業員が数万人いる中で、生命力が強くやんちゃで、例えば、安部さんのような人を探している」とユーモアを交えながら伝えた。

これに対し、従業員が数万人もいる大企業でやんちゃな人材はいるのか?との問いには「いる」と断言したが、なかなか見つけられない実情を明かした。岡島氏は「ビジネスコンテストを開催したり、DXなどをテーマにした研修に参加を呼びかけたりしてもまったく手が挙がらない。一方で、社会課題の解決など具体性の強いテーマだと反応を得やすい」と述べた。

安部氏は大きく共感し「研修のテーマではよくイノベーションやデザイン思考、リーンスタートアップなどが掲げられるが、それらは手段論であり、魅力を感じない。知りたいのは、その先にある課題で、具体的にこれを解決したい、と提示されると興味を掻き立てられる」と話した。岡島氏によれば、誘蛾灯の施策が功を奏し、未来のリーダーを担える人材の発掘・採用につながる例も出ているそうだ。

人材育成のあり方を大きく変える必要がある。

岡島氏は現状の人材育成、リーダー開発の問題点を指摘した。今多く行われている研修は線形、効率、還元論、論理、同一化、オペレーショナルなどに重点が置かれている。これらの能力の開発はノウハウが蓄積されており、教えることも十分できると解説した。

一方で、これからのリーダーに求められるのは、これまで重視してきた能力と対極にある非線形、付加価値、全体論、直感、顧客重視、イノベーションなどだ。これらはなかなか教えるのが困難であり、「直感など磨くには場数を踏むしかない。もっと言えば意思決定の数が重要。主体性を持って数多くの意思決定をすることが人を育てる」と強調した。岡島氏は、意思決定をする場として、社会課題は最適な場の一つではないかと安部氏に問いかけた。

安部氏は大きくうなずき、「現状の多くの研修はゴールが示されており、育成できるのは論理などが中心になる。しかし、社会課題の解決には正解がない。意思決定が求められる場面は多く、これまで育てられなかったさまざまな能力が開発される」と話す。

安部氏はさらに独自の理論を展開する。「21世紀の大きな課題の一つとして、『モチベーション格差』があると思う。モチベーションは単なるやる気ということではなく、ある方向に向かってエネルギーを使うという、一種の生命力や主体性のようなもの。生命は方向性を見失うとモチベーションがなくなり、死に向かう。組織も生命体だと考えると、方向性を見失うと同じように死に体になる。問題は、モチベーションのある個体も、組織に入るとモチベーションを失いがちだということ。組織の中にいる個人が、どのようにモチベーションや主体性を保つかを考えなくてはいけない」と話した。

岡島氏は組織がモチベーションの問題を抱えていることに同意した。「先ほど、大手にもやんちゃな人材がいると言ったが、入後数年で『組織の色』に染まり、モチベーションや主体性をなくすケースが多い。批判はしても行動を起こさない評論家になってしまう人材も少なくない」と明かし、この問題を解決するための施策も多く手がけていると伝えられた。

主体性は「勘違い」から生まれる。

主体性が出やすいデザインとして、「勘違いできること」と安部氏は言う。例えば、ある課題と向き合った時、自分でもできる、自分の力が求められていると「勘違い」できると、主体性が生まれると説く。

「宣伝になるが」と前置きした上で、安部氏は「フィールドアカデミー(リディラバが行う企業向け研修。社会課題の現場に足を運び、解決を試み)は主体性を育てることが一つのテーマ。身近で手触り感のある社会課題は主体性を育てるのに最適なプロジェクトの一つ」と強調。

さらに、「複雑性が高く明確な未来が描きにくいVUCA時代では、ゴールの設定がしづらい実情もある。その中で、人から感謝されるという根源的な喜びを味わえるゴールを設定でき、その観点からも有用性が高い」と付け加えた。

このほか、リーダー育成を阻む要因として、自己効力感(セルフ・エフィカシー)の欠如が指摘された。自己効力感は未来の自分に対する肯定感や期待で「自分はできる」と自身の可能性を信じられることである。先が不透明だからこそ、答えの見えない課題に挑戦していかなければいけない場面は多くある。

ある意味で、失敗するのが前提となるが、国内では10歳を一つの境に「失敗しない」ことに重きを置き、「失敗を避ける方法」を聞きたがる傾向が強まるという。失敗は恥ずかしいと学校などで直接・間接的に指導されるため、自己効力感は大きく低下し、子どもであっても未知への挑戦を敬遠する。

岡島氏は、「これからは未知のことに挑戦してもらわなければならない。その時にもっとも重要なのが自己効力感だが、日本では育ちにくい」と話し、これを受け安部氏は「学校教育の改善も求められる」と踏み込んだ。

最後に、岡島氏は「これからのリーダーに求められる資質は、直感や主体性など極めて抽象度が高いものばかり。それらは、教えようとして教えらえるものではない。必要なのは、意思決定の場数を踏むこと。企業は、若手のうちから意思決定の場数を踏ませることを意識してほしい」と呼びかけた。

フィールドアカデミーをオープンイノベーションのプラットフォームに。

引き続き、リディラバの事業の紹介が、司会を務める同社の木本一花氏と安部氏によって行われた。同社は「社会の無関心を打破する」をミッションに、社会課題の現場に赴く研修(フィールドアカデミー)やメディアを通じての発信を手がけている。

特徴は、社会課題の「構造化」を行うことだ。社会課題を表層的にとらえるのではなく、複雑に絡む背景を解きほぐし、何が本当の課題かを理解する。その上で、社会課題と実際に向き合うことで、当事者意識や主体性が醸成されるのである。また、プログラムを通じ、「傑物」との出会いがあるのも、参加者の能力開発につながる要因の一つとなる。

これまでリディラバが取り組んできたツアーは企業の経営幹部をはじめ、中高生を対象に、これまでに300種類以上が実施された。具体例として、新潟県十日町市の「大地の芸術祭」が取り上げられた。同祭はアートをモチーフとした地域おこしの先駆けで、約20年の実績がある。

世界的にも評価も高く毎年、約50万人が訪れ、世界的なアーティストなど多くの著名人も参加するという。経済的効果も大きいが、その一方で、主催者や地域の方たちの高齢化の問題で、後10年ほどで開催を止めざるを得なくなるという。

この課題に対し、複数の企業から選抜されたメンバーが現地に足を運び、解決を試みる。地域の方やアーティストをはじめ、商工会、市役所、国(文化庁)など、さまざまなステータスホルダーが存在するため、問題は複雑化するが、だからこそ、研修として手がける価値があると強調された。

プログラムの効果として、参加者は答えのない課題に直面することで一度、自身の問題解決やファシリテーション、創造性などの能力について評価を下げることになるという。しかし、「そこに意義がある」と安部氏は語る。「現場の価値は自分の至らなさを知ること。それを知ることで大きな成長が遂げられる」と話す。

また、エンゲージメントにつながることも多いとのことだ。「課題の解決には、個の力ではどうにもならないことが多々ある。その時、チームの大切さに気付き、組織として動く価値を知る。個人ではできないことを会社を通じて行おうと思えた時、モチベーションは沸いてくるし、エンゲージメントも高くなるのではないか」と解説した。

最後に安部氏は、「フィールドアカデミーは会社の枠を超えて大勢の人と交流できる。時に喧々諤々のディスカッションを行い、きずなも生まれる。今は、組織を超えた取り組みが求められている時代。オープンイノベーションのプラットフォームになればとも考えている。ぜひ多くの方に参加いただき、現場を見てほしい」と伝え、セッションを締めくくった。

取材後記

これからのリーダー人材は、これまでの理想とは大きく異なる。求められる資質と開発すべき能力は、ともすれば長きにわたって日本企業が敬遠してきたものばかりなのではないかと感じた。今後、人材開発や採用に関わる場合は考えを一新させ、かつての成功体験すらも一旦は忘れる必要があるかもしれない。

こうした状況の中、タレントパイプラインの構築に有効な一つの手段が、社会課題への取り組みだろう。社会課題は複雑に問題が絡み、日本あるいは世界全体を考慮しないと解決できなことが多い。正解が見えず、一人の力ではどうにもならない課題だ。だからこそ、人材開発の一環として取り組む価値があると安部氏は言う。その通りだと思えた。

また、同氏によれば、社会課題の解決に向けて国も予算をつけており、市場としても大きいそうだ。事業化を視野に入れるのも有効と言える。まずは社会課題がどんなものか、現場に足を運んでみるのはいかがだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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