【インタビュー/NTTアドバンステクノロジ・遠藤氏】 デジタルとアナログを融合した"学習ドリル"・「ノウン」開発の狙いとは。
eラーニング隆盛の中、システム開発や先端技術事業をリードするNTTアドバンステクノロジ株式会社がこの春、特に高度資格取得のための学習に有効な高機能オンライン学習プラットフォーム「ノウン」を発表した。紙と同じ感覚で書き込めるうえ、学習履歴に応じた再出題機能などにより、アダプティブラーニング(個別適応学習)も可能にする。さらに、その学習履歴はクラウド上に収集・蓄積されるため、NTTグループの優れたビッグデータ解析により、一層の学習効率アップを図ることができる。
「ノウン」開発の狙いやこれから目指すものについて、開発者で同社のクラウドIoT事業本部・主幹技師の遠藤公誉氏(上写真)に伺った。
デジタルとアナログを融合した「学習ドリル」
――まず、「ノウン」の概要から教えてください。
遠藤:高度な機能を持つ教育・eラーニングのプラットフォームです。分かりやすいところでは、「デジタルドリル」をイメージしていただくと良いかもしれません。タブレットやスマートフォンでできる学習ドリルです。
弊社ではアプリとクラウドによるサービスを提供しています。アプリをインストールしていただき、そこに教材などのコンテンツをダウンロードしていただくことで利用ができます。第一弾として2017年6月に、株式会社きんざい様から「ノウン」によるデジタルドリルがついた『’17〜’18年度 最短合格FP技能士2級』『’17〜’18年度 最短合格FP技能士3級』が発売されました。
「ノウン」によるドリルは紙と同じ感覚で使えます。書き込みが自在にできますし、蛍光ペンのようにペンを替えてチェックをすることも可能です。同時に、デジタル機能として自動採点や学習結果に応じた再出題などの機能も有しています。それも、ただ採点するだけではなく、解答にかかった時間、理解度や誤った理由なども記録できます。
こうした学習データは、すべてクラウド側にアップロードされ、保存されます。これにより、学習塾などの教育サービス事業者業の方が、生徒の学習の進捗状況や理解度を把握するのにも使えます。また将来的には、蓄積されたビッグデータの解析により、さらに精密なアダプティブラーニングを実現できると考えています。
心理学・行動分析に基づき開発
――アナログとデジタル、それぞれの良さを掛け合わせた感じですね。
遠藤:eラーニングは利点も多いのですが、実は利用者の中からは「学習が作業になってしまう」という声も聞こえます。従来型のeラーニングは、選択肢が出てきて解答すると「○」「×」が瞬時に表示される、というものが多いのですが、これだと選択肢のボタンを押すことが「作業」のようになってしまい、記憶に残りにくいという難点があります。記憶を定着させるには、解くプロセスを書き込んだり、間違ったところに線を引いて、その問いを解き直すということが有効です。しかも、それを後から自分で確認できることが大切です。そこで「ノウン」では、書き込んだデータを保存して後で参照できるようにしています。
また、「ノウン」でも選択式の問いでは「○」「×」を正誤判定する機能を有しているのですが、単にそれだけでなく、間違った場合には理解度や間違えた理由を記録できるようになっています。「完璧」「覚えていない」「あやふや」「解き方誤り」「未習熟」「うっかりミス」から選択するもので、こうした記録は後でもう一度問題を解くときに役立ちます。
実は、「ノウン」の発案者は大学院で心理学を学んでいたという、現在、人事部タレントマネジメント推進室で人材開発担当する堀野室長です。行動分析などを学んでいた過去があり、彼女はその知見をベースに学習の定着を重視した仕組みを「ノウン」に組み込んでいます。「ノウン」は、学習プラットフォームとしての新しさと同時に、学習効率を上げるための工夫も存分にされているのです。
――そもそも、「ノウン」はどのような狙いで開発されたのですか。
遠藤:先ほどの堀野が、社内のビジネスモデルコンテストに応募し入賞したのが始まりです。同コンテストでは自社リソースを活用することが条件なのですが、「ノウン」は、弊社にすでに、プラットフォームビジネスのノウハウがあること、学習システム開発の実績があること、ビッグデータ解析技術があることなどから、非常に実現性がありました。同時に彼女は、自分自身が何度も高度資格の取得にチャレンジしてきていることもあり、『こういうドリルがほしい』という明確なイメージを持っていました。「ノウン」で実現された、オンラインドリルと書き込める機能との融合です。
こうした社内的な経緯がある一方で、いま社会では、100年生きる時代となり、働き方、生き方自体が変わってきています。かつてのように一つの仕事で生涯をまっとうできる時代は終わり、これからは一人が複数の仕事や資格を持つようになっていくと言われています。つまり、生涯のうちに何度も学び直すという生き方になっていくのです。そういうなかで、学習の効率を上げていくことは非常に重要です。eラーニングが浸透するなか、弊社の持っている技術でそこに何か貢献できないか、という思いがありました。
ビッグデータ解析でさらに学習効率を上げる
――今後の展開のイメージをお聞かせください。
遠藤:まずはコンテンツを増やすことです。弊社はプラットフォームの提供には強みがありますが、コンテンツは持っていません。イメージしているのは、例えば教材を作っている出版社の方。教材制作で長年培ってこられたプロのノウハウがあることと思いますので、その教材をもとに「ノウン」によってさらに学習効率を高めるものが作れればと思います。問題集などを、全て「ノウン」用のコンテンツにすることもできますし、一部だけ「ノウン」対応にして問題集に添付いただく形も考えられます。作り方も、コンテンツをPDFやテキストでお渡しいただいても結構ですし、逆にこちらから「ノウン」用コンテンツの仕様をお示しし、「ノウン」向けに独自に作り込んでいただいても大丈夫です。お話ししながら良いやり方を見つけていければと思います。
また、学習塾などの教育サービス事業者業の方とも相性は良いと思っています。独自コンテンツをお作りいただくのも良いですし、学習塾などの場合は月額課金のような形で補助教材としてご利用いただければとも思います。クラウド上に学習履歴のデータがあるので、先生の指導がより効率的になるはずです。
――「ノウン」を展開するにあたって、NTTアドバンステクノロジ様ならではの強みは何でしょうか。
遠藤:今後の展望ということになりますが、コンテンツと利用者が増え、学習履歴のデータが蓄積されてくれば、そのビッグデータを活用していくことができます。NTTグループには優れたビッグデータ解析技術があるので、ビッグデータを解析することで、利用者に対してはその人に最適な学習を提供していくことができるようになります。類題の提供や参考となる学習動画の紹介などもできるでしょう。
ビッグデータが活用できるようになれば、コンテンツ提供者様にも情報をご提供することができます。ユーザーの学習行動が見えてきますので、「意図した通りに解かれていないですよ」とか「難易度設定を変えたほうがいいかもしれません」など、さらに良い教材を作るためのお役に立てると思います。