【イベントレポート】第18回NEDOピッチ~「人工知能」分野の有望ベンチャー5社が登壇
民間事業者の「オープンイノベーション」の取組を推進し、国内産業のイノベーションの創出と競争力強化への寄与を目指し設立されたオープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)。
6月27日(火)、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とJOICの共催で、イノベーション及び具体的な事業提携事例の創出を目指すイベント「第18回NEDOピッチ」が実施された。テーマは、NEDOピッチ3回目となる『人工知能』。会場は150名を超える参加者で超満員となり、熱気で包まれた。
今回の「NEDOピッチ」では、人工知能分野における有望技術を有するベンチャー企業5社が、自社の研究開発の成果と事業提携ニーズについて、大企業やベンチャーキャピタル等の事業担当者に対し、創造性の高いプレゼンテーションを行った。
Hmcomm株式会社
▲代表取締役CEO 三本幸司氏
同社は音の認識技術を取り入れたAIソリューションを開発している。2014年に国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)発のベンチャー企業として、産総研独自の音声処理技術を用いたAIソリューション「The Voice JP」を開発。
「The Voice JP」は音声をテキスト化し、テキスト化されたデータに対して検索、分析や他言語へ翻訳を行うことが可能となる。同社の強みは、環境ノイズが大きなところでも精度の高い音声認識ができる点だ。例えば、コールセンターでの業務効率化、オペレータやスーパーバイザ業務の省力化、顧客満足度の向上を実現している。さらに、ただの音声認識精度の高さだけではなく、新しい言葉や、業界特有の用語をネット上または会社のイントラ上から機械学習できる仕組があることも大きな強みだ。
代表の三本氏は「今後は、多様なビジネスフィールドにおいて新たな “音声処理サービス Vシリーズ“ を展開していきたい。」と話した。その中の一つに外部の音に左右されない骨伝導音の特徴を利用して、騒音・雑音化の中でも音声を認識・確保できるソリューションを考えている。
最後に、「我々は音声AIソリューションを実社会に活用していくことがミッションであり、活用していけば精度も上がってくる。音声データを活用したい企業や、お客様に対して音声AI技術を活用させたいニーズがある企業と組んでいきたい」とアピールした。
株式会社Cogent Labs
▲リードコーポレートプランナー 大隅文貴氏
「人工知能を活用して人々の生活の質を高めて未来を創る」というビジョンのもと集められた同社のメンバーは、種々様々。世界からリサーチャーやエンジニアを採用し、最先端の人工知能を活用したプロダクトの開発し、SBIインベストメント株式会社およびトッパン・フォームズ株式会社から、13億円の資金調達にも成功した。同社が事業化を進めているサービスの一つが、印字・手書き文字のテキスト化するサービス「Tegaki」である。
ディープラーニングの技術をベースに、複数のニューラルネットワークを組み合わせ、業界最高水準の文字認識率を実現した。現在、手入力作業にかかる業務の効率化とコスト削減を目指している。より多くのデータを処理・学習することで、精度が向上していく特徴を備えるほか、印字、手書きのテキスト化を一つのソリューションサービスによって解決できる。
今後、「Tegaki」の事業拡大を目指し、さらに資金調達の目的の一つである「次世代人工知能の開発」を進めると共に、コアになるテクノロジーをベースにしたその他のソリューションサービスの開発を展開させると意気込みを語った。こうした事業展開をふまえて、登壇した大隅氏は「様々なニーズのあるお客様に対して長期的なビジネス課題を解決するために連携できる企業と出会いたい」と話した。
株式会社PrediXT
▲取締役CTO 西川玲氏
同社は、京都大学大学院情報学研究科新熊亮一准教授が生み出した全く新しい要素技術「関係性システム」の研究開発、事業開発を行っている。登壇した西川氏は「関係性システムは機械学習ではない」と話す。「関係性システム」は、人、場所、モノなどの接触履歴から近未来を予測する、これまでの自然語解析をベースとした解析や協調フィルタリング等の既存技術と全く異なる概念の未来予測技術である。
HEROZ株式会社
▲執行役員 開発部長 井口圭一氏
「AIがプロ棋士に勝つ」——2014年史上初となる将棋人工知能が現役将棋プロ棋士に勝利、その後も数々のプロ棋士を打ち負かし話題となった。そんな”将棋AI No.1 “の名を持つ将棋人工知能(Ponanza)を開発したのが同社のエンジニアである。さらにAIがコーチする将棋のオンライン対局アプリ「将棋ウォーズ」開発で培った人工知能技術をその他の頭脳ゲーム領域やFinTech、ヘルスケア分野等に広く応用している。同社の強みは人工知能の研究だけではなく、最先端の人工知能を使い、素早いサービスを提供するノウハウがあることだ。
さらに、あらゆる人工知能の既存技術を使っているため、何か課題があった時にその課題に対して最適な技術を組み合わせて提案できる。現在では、製品の設計、ソフトウェアの開発、物流の配送計画などの分野に対しても同社技術を取り入れて、業務効率の最適化を進めている。「今後、より広くAIの分野を広げていきたい」と語る井口氏。「まだデータはないが、何かAIで解けるのではないか?そんなところからでも是非、お声がけください」とアピールした。
エクストリームデザイン株式会社
▲代表取締役 柴田直樹氏
2015年に誕生した同社のキーワードは「スーパーコンピューターの民主化」。誰でも簡単に使えるスーパーコンピューターの環境をパブリッククラウド上で再現するサービスを展開し、企業の研究開発の価値を向上させる構築自動化サービス「XTREME DNA」の開発に成功した。これにより、プロ仕様の高速演算環境の実現が可能となる。
同社製品の強みは、スパコンアーキテクト(技術者)のノウハウを学習モデルに採用し、システム構築運用とクラウドリソースの最適利用をユーザーにレコメンドする自動化エンジンの実装の強化である。
今後、製造業、医療創薬分野でのシミュレーション環境、金融流通などビッグデータの高速演算を実現する分散並列環境を瞬時に作成し、複雑なシステム構築とその最適運用をサポートするエンジニアリングサービスすべての完全自動化を目指し、さらなる事業拡大を目指す。柴田氏は「膨大な計算量に対して一番効率の良い計算はどうしたら良いのか、そのような実際の課題に対して我々のレコメンドエンジンを合わせてデータを蓄積し、より良いものを生み出せるようなコラボレーションをしたい」と語った。
取材後記
ピッチ開始から会場は超満員。「人工知能」分野が今、関心が高いことは明らかだった。ピッチ中には登壇企業に対するコメントや質問を参加者がリアルタイムにつぶやける「Mentimeter」というアプリを使い、終始活発な質疑応答・ディスカッションが交わされた。
登壇企業の5社はどれも魅力的で革新的な技術を持ち、未来を切り拓くまさしく「パイオニア」であった。プレゼンテーション中、「まだ外には出せない技術が……」の声が出るなど、まだまだ秘められた技術・製品がありそうだ。ただ、人に替わるモノとしてではなく、人が人らしく豊かに過ごせるための人工知能。そんな未来が垣間見えるピッチであった。
(構成:眞田幸剛、取材・文:保美和子)