【Open Innovation Guide③】 『「連携したい事業領域が曖昧である」という壁の越え方とは?』
eiiconは、10月12日に”オープンイノベーションの手引き”というコンテンツを公開しました。これは、経済産業省「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(初版)」を元に、事業提携を成功させるための各種ノウハウをわかりやすくWEBコンテンツ化したものです。自身の課題感や、状態に合わせて検索、読み進めることが可能となっています。もともとの手引きも100ページ以上ある大作ですが、eiiconのコンテンツもボリュームがあるため、eiicon founder 中村が解説していきます。
◆Open Innovation Guide③:「連携したい事業領域が曖昧である」という壁の越え方
おはようございます。中村です。本日は栄えあるeiiconlabの2017年最終回。そんな今回は「事業会社がぶつかりやすい10の壁」の中から、3つ目の壁「連携したい事業領域が曖昧」にフォーカスしてお伝えしてまいります。https://eiicon.net/about/guidance/company-task.html
eiiconをリリースして明日で10ヵ月。立ち上げから現在に至るまで、eiiconとしては実に5,000社以上の企業とコミュニケーションをとってまいりました。それはもう様々な業種・規模の企業・団体、様々なバックボーン・年齢層の経営陣・担当者の方とお話しさせて頂きました。
もちろん様々な施策を講じうまく進みだしている企業様もありましたが、数多くの経営者・担当者の方が悩まれていたのは事実です。その悩まれるポイントで最も多かったのが「連携したい事業領域が曖昧」であることによる弊害の部分でした。そのため、2017年の締めくくりはこの「壁」についてお話していきます。
◆「連携したい事業領域が曖昧である」と「オープンイノベーション」は生まれない。
【Guide①】 『連携にあたっての心構え』で、「悪しきループのはじまり」について触れさせていただきました。「オープンイノベーション」というマジックワードが経営幹部に「大きなお金を生む金の卵を外からたくさん発見できる手法がある」という夢を見させ、戦略なきパートナー探しへ企業を駆り立てるケースのことです。【Guide①】では「そんな魔法はない、ちゃんと地に足つけて何のために連携するか考えよ」という話だったのですが、この経営幹部から指示を受けた現場で多く発生しているのが「自社が社外連携したい事業領域が曖昧であり、コンタクトしても大抵の場合で挨拶止まりになってしまう」という事象です。
そうは言っても体験・体感していないとあまり想像がつかない部分だと思いますのでいくつか具体的に例を出してお話しできればと思います。例えばこちらのページなんてどうでしょうか。
「連携したい事業領域が曖昧である」ことが引き起こす非常にぼやっとした募集ページです。
「商品関連での新商材開発」「顧客基盤を利用した新サービス」「研究開発機能との共同研究」「情報資産・生産機能を利用した開発」など・・・。たくさん書いてありますが、それこそ、「連携したい事業領域が曖昧」であることを体現しているページになってしまっていることが伝わりますでしょうか。
この募集ページを介して、発展的なオープンイノベーションへと繋がる出会いが創出される可能性はほぼありません。それこそ「挨拶にとどまる」もしくは「無理矢理なんとかコラボレーションの道をひねり出す・こじつける」という結果になります。
具体的に何を実現したいのかが全く分からなくなってしまっているページだと言えるでしょう。
大企業であればあるほど事業の幅があり、どの部署も新規事業をやりたいと考えています。生産活動を続ける上で共同研究・サービス開発・新商材開発すべての事業・サービスにおいて必要です。ただ「今回のオープンイノベーション=社外へ門戸を広げて一緒にやりたい事業領域」はせめて具体的にすべきです。
◆「オープンイノベーション迷子」事例
それからもうひとつ具体例をお見せしましょう。
実はこれもオープンイノベーションにおける募集テーマを設定する上で、よくある事例です。
一周回って、「『大きなお金を生む金の卵』を求む!」とだけ言っている募集ページ(笑)。
こういうページを出した当初、担当者はじめ、当該企業が悦に入っているケースもあります。「ちょっと尖った募集ページを出してやった」という、所謂「してやったり顔」。ただ、やはりこのように「定まっていないメッセージ」は相手に届かないのです。時間が経つに連れ結果が伴わずに担当者がどんどん焦燥感に苛まれていく姿や、結果プロジェクトに失敗して次なる挑戦で相談を受けた案件もありました。
何にもはっきり見えていない・決まっていないということを露呈している事実すら既にわからなくなってしまっているという「会社全員でオープンイノベーション迷子」事例ですね。こうならないようにどうしたらいいか。その考え方・ポイントを次から解説していきます。
◆社外と連携する事業領域を決めるための考え方・ポイント
オープンイノベーションの手引きでは
■社外と連携する事業領域を決めるための考え方・ポイントを用意しています。
https://eiicon.net/about/guidance/task2.html
ここでは、「事業連携領域を曖昧にさせない」ためのポイントとして
●現場で実行できる段階まで領域を 詳細化、自社よりも外部が強みを持つ領域を明確化する
●定量的な目標・指標や インセンティブを設定する
●オープンイノベーション管轄部門が社内で一貫した発信を実施する
などが挙げられています。
具体的な会社としては3社、Philips、パナソニック、コマツの事例の記載があります。
コマツ(※1)の事例をピックアップすると、コマツの技術が不足する領域において、「実際に何をするべきか」「ビジョンを実現するために、どのような技術が必要か」という段階まで落とし込み、全社で推進をしていくという内容を実践しているというものが取り上げられています。
まず①「技術が不足する領域」を限定し、その上で、②「現実的な協業範囲」を定め、最後に③「求める技術属性、すなわちターゲット企業」を定めるという手順を取り、その①〜③をぶらさず遂行する部隊を存在させ率いさせている事がわかります。
「事業連携領域を曖昧にしない」。
そのためにはまず次の4ステップ、すなわち、
①自社の不足を洗い出す。自らのWeakpointを知り、
(=今回のオープンイノベーションを実践するべき最大の理由を定める)
②成し遂げたいビジョンを明確にし、どのように組むかまで考え、
(=ゴールと協力部署を定める)
③ 外部と共創したい技術領域・事業領域を明確にし
(=ゴールを達成できる募集ターゲットを定める)
④途中でその目的・ゴール・領域をぶらさず邁進する
(=オープンイノベーション担当部署がぶれずに遂行する)
ことが大切です。
◆カリスマオープンイノベーターは実在する
オープンイノベーターの中には、「具体的に定めない方がうまくいく」と口にされる方もいます。
ここまでの話と反しますが、実はこれも事実だと思います。そのオープンイノベーターたる人たちは、会社のあらゆる新規事業の可能性が脳内に既にしっかり入っていて「あの事業ではどうか」「あの技術との掛け合わせはどうか」と瞬時に頭の中でパズルのピースをはめることができるのです。その上で「どういうタイミングで・誰に・どんな風に会わせたらいいか」の鼻が利くので、会社の中を縦横無尽に動きSEEDS化させることができます。ただこれは非常に属人的であり誰にでも出来る芸当ではありません。やはり会社の中でも一目置かれているカリスマであったり、相応の立場にいる人であることが常であり、皆例に漏れず『忖度はせず』『馬力があり』『達成するまでやめないコミット』がある人なのです。会社組織の中で、敢えてこういうスーパーマン人材を育てることは難しく、また発見する事も非常に難しい。
そのため、やはり、企業としてオープンイノベーションを実践し続けるためには、属人的ではないやり方で体系化していく必要があり、初期段階のステップとして「事業連携領域を曖昧にしない」ことは鉄則なのです。
◆最後に
ちなみにeiiconでは事業連携領域を明確化したうえで、そのもう一段先、その相手先に響く内容をともに考え、形作るところまでのご支援をしています。
このあたりのニーズがあったらぜひお声掛けください。
それではまた今日も長くなりましたがこの辺で終わります。
たくさんの方に支えながら無事、1年を締めくくる事ができることeiicon一同御礼申し上げます。
来年はより一層、いただいた恩をお返ししていくべくオープンイノベーション支援に邁進していく所存です。
年末年始、お休みの期間にぜひ改めて自社を客観的に見ながら「オープンイノベーションの手引き」を眺めていただけたら幸いです。先人たちが失敗し、苦労した経験をまとめた内容が詰まっている最高の教科書をぜひご一読ください。
●他詳細はこちらから オープンイノベーションの手引き https://eiicon.net/about/guidance/
※1:以前、イベントレポートにてコマツ取締役会長 野路 國夫氏 の講演をレポートしています。ご興味ある方はこちらもご一読ください。(前編) https://eiicon.net/articles/100 (後編)https://eiicon.net/articles/99
解説/オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」Founder 中村 亜由子(nakamura ayuko)