【イベントレポート】日本郵便が仕掛けたオープンイノベーションプログラムの裏側を探る!~「中部オープンイノベーションカレッジ」 オープンイノベーション勉強会~
東海東京証券株式会社が、中部地域を中心に産業創造を目指して創設した「中部オープンイノベーションカレッジ」。今年度第1回目となるオープンイノベーション勉強会が、5月23日に名古屋の東海東京証券本社ホールにて行われた。
今回は、2017年に日本郵便が初めて実施したオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」を題材に、eiicon 中村のモデレートのもと、日本郵便の福井氏と採択企業であるオプティマインドの松下氏のパネルディスカッション形式で、同プログラムのリアルを探った。
▲日本郵便株式会社 事業開発推進室 主任 福井 崇博氏
▲株式会社オプティマインド 代表取締役 松下 健氏
▲eiicon company 代表/founder 中村 亜由子
オプティマインドは同プログラムの採択企業の4社に選ばれ、今年2月に開催されたDemo Dayで最優秀賞を受賞している名古屋大学発のスタートアップ。2015年創業、物流の最適化を専門に研究を行い、機械学習も得意としている。
同社と日本郵便は、「配達効率を上げる」という目的のもと、これまでアナログに行われていた配達ルート作成を自動化して新人のレベルを底上げし、誰でも最初から平均レベル以上の配達を実現するために共に取り組んできた。
実証実験では埼玉県の草加郵便局にて配達データやドライバーによる検証を実施。熟練技のデータ取得や不在予測・最適訪問時刻の学習を行うことで、より精度を高めた業務効率アップを目指すことを発表した。
パネルディスカッションでは、2社の取り組みのリアルストーリーを紐解いていった。
プログラムを進める上で一番大変だったことは?
eiicon・中村 : プログラムを進める上で一番大変だったことはなんでしょうか?
日本郵便・福井氏 : 始まってからももちろん大変なことはありましたが、プログラム実施に至るまでが最も大変だったかもしれません。正社員だけでも20万人いる日本郵便で、社長までコミットしたプログラムを実施するという意思決定自体がとても大きなものでした。2016年の夏ごろから企画をはじめ、リリースできるまでには1年程かかりました。
eiicon・中村 : 1年も!どのように進めていったのですか?
日本郵便・福井氏 : まず実施したい目的を社内に理解してもらうために、地道にコミュニケーションを進めていきました。
eiicon・中村 : 社内に味方を作っていったということですね。
日本郵便・福井氏 : はい。時には、他社で既にアクセラレータプログラムを経験している会社の方や、オープンイノベーションの取り組みを進めている外部の方にも協力していただき、社内の主要なメンバーに向けて話をしてもらうこともありました。
また、日本郵便の中で私が進めていた「まちてん」という地方創生フォーラムへの出展プロジェクトをメディアに取材をしてもらったことや、イノベーション関連の取り組みを都度発信していくことで、少しずつ社内でのプレゼンスを高めることができたと思います。
日本郵便といえば、堅い官僚系の人ばかりというイメージもあるかもしれませんが、そんなことはありません。社内のいろいろな人に本当に協力してもらいました。
eiicon・中村 : なるほど。松下さんは実際にこのプログラムに応募された側ですが、進める上で大変だったことはありますか?
オプティマインド・松下氏 : 正直、皆さんとても協力的だったので、大変ということはそこまでなかったんですよね。唯一戸惑ったといえば、自分自身会社で働いた経験がなかったので、会社のお作法が分かっていなくて。稟議書ってなに?というところから始まりました。(笑)
eiicon・中村 : 松下さんは、在学中に起業されたんですよね。
オプティマインド・松下氏 : そうなんです。会社のルールが分かっていなかったり、大企業の時間軸の違いを始めはあまり認識していませんでした。
スタートアップは毎日が最速でのトライアンドエラーの繰り返しです。プログラムにおいてもその時間感覚で臨んだところ、「1週間でできるだろう」と思っていたものが、大企業で通すには1ヶ月程かかってしまうというものもありました。
各セクションのキーパーソンで組成されたチーム
日本郵便・福井氏 : 今回のプログラムは、それぞれのチームに日本郵便社内の該当セクションのキーパーソンのみが入る形で進めました。
その体制でも、多数の支社や事業部に関わることもあるので、すぐに意思決定できないこともある。その点は最初苦労したと思います。
オプティマインド・松下氏 : キーパーソンがチームに参加してくださったのは大きかったですね。苦労しながらも、担当の社員の方が社内人脈を活用して精力的に進めてくださり、それ以降はとてもスムーズに進みました。
あとは、毎週の打ち合わせの中で、目的を常に念頭において、いつまでにどこまでやるか、というKPIをしっかり設定しました。逆算してアクションを定めていったため、ダレることなく進められたと思います。
また、一番初めのチームキックオフの際に、両社でストレートに互いの要望を伝えあっていたため、変に遠慮することなく、1つの会社のようなチームワークでスムーズに進められました。
eiicon・中村 : プログラムの事務局だけでなく、社内を動かせるキーパーソンを巻き込みコミットすることが重要なのですね。
「アクセラレータプログラムに参加・実践して、一番良かったと思うことは?
eiicon・中村 : そもそも参加のキッカケは何だったのでしょうか?
オプティマインド・松下氏 : たまたま知り合いの方から「こんなプログラムがあるけど出てみたら?」と紹介されたのがキッカケでした。募集テーマの1つ「テクノロジーを活用した郵便・物流の管理配送業務効率化の実現」が、まさに自分たちが進めていたことそのもので、これはやるしかないと締め切り2日前でしたが急いで応募しました。
eiicon・中村 : ぎりぎりでしたね!参加してみて良かったと思うことはありますか?
オプティマインド・松下氏 : はい、大きく3つあります。
まず1つは、本気で事業化を進める継続性のあるプログラムだったこと。イベント期間が過ぎると「はい、終わり」ではなく、現在も試験導入に向け取り組みを進めています。
2つ目は、PR効果。イベントの注目度も高くいろいろなメディアにも取り上げられたので、自社HPのアクセスもかなり伸びました。
そして最後に、会社が上向きになったことですね。東京とのコネクションもできました。普段は名古屋にいるので、日々刺激をもらい、危機感を持ち、今後のモチベーションアップにつながりましたね。
eiicon・中村 : 日本郵便さんはどうでしたか?
日本郵便・福井氏 : 今回が初めての取り組みでしたので、スタートアップの方と話をするのも初めてという社員も多くいました。松下さんのように、20代で会社を創り、世の中を変えている人がこんなにもいるのだと、社内にもとても良い刺激になりました。
チームに直接関わっていた社員はもちろんですが、今回のプログラムは、法務や渉外、広報部門など、本当にいろいろな人の協力があり実現したことです。
このプログラムを通じ、改めて日本郵便の社会的使命や今後私たちがやらなければならないことがより明確になったと思います。また、参加したメンバー1人ひとりに少なからずその思いや自己効力感が芽生え、社内の風土も変わっていっていると感じています。
eiicon・中村 : なるほど。目に見える実証実験の成果や、事業化の糸口を見つけることももちろんですが、このプログラムがキッカケとなり、組織風土が変化したり、会社自体の認知度の拡大や売上につながる、といったことがあったのですね。
参加者からの質問では、「何をもってプログラムが成功したといえるのか?」という議題で盛り上がった
会場からの質問 : 今回のプログラムで「成功」といえるゴールはどのように設定していたか?例えば金額目標などは設定していたのか?
日本郵便・福井氏 : 金額目標は設定していませんでした。今回のゴールは、全採択企業との取り組みにおいて、将来像とそのためのファーストステップ(いつどこでどんな実証実験をやるか等)を明確化することとしていました。そしてその中で1つでも多くの本格導入や事業化するプロジェクトが生まれること。つまり、新しい価値軸を見つけることを今回のプログラムの成功の指標として置いていました。
そのために、実証実験の場を用意したり、テストマーケティングの費用も準備し、あらかじめリソース調整をしていました。
第1回目でしたので、まずは既存事業の課題を改善・改革することを中心に進めていましたが、協業の土台はだいぶ出来てきたと思います。第2回目も間も無くスタート予定なので、よりブラッシュアップしていきたいと考えています。
eiicon・中村 : オプティマインドさんはどうですか?
オプティマインド・松下氏 : 今は試験導入を進めている段階です。ここで導入が進んでいけば、「成功した」といえるのではないでしょうか。もちろんスタートアップですから、その先には認知度や売上拡大も実現したいと思っていますが、現在は目の前にある試験導入を成功させるために尽力しています。
編集後記
以前eiiconでもアクセラレータプログラムのカオスマップを紹介したが、近年、本当にさまざまな企業で取り組みがなされていることが分かる。
ただしながら、アクセラレータプログラムはあくまでも1つの手段に過ぎない。このプログラムをキッカケに何を得たいのか、何をゴールにしていくのか。各社しっかり議論し設定しておくことが重要だと考える。
「20●0年までに●円の売上を作る」という目標を掲げる企業をよく目にする。そのためには、たとえば単年ごとに区切り、どこまでいくのか?何をするのか?と、目標を決め細かくチューニングしていくことが重要ではないだろうか。
既存事業と比較すると、確かに目に見える売上やインパクトは小さいかもしれない。その中で、0→1の価値を生み出すことの難しさを認識し、各ステップごとに目的・目標を定め一歩ずつ進めていくことが、将来の価値を作ることにつながるのではないかと思う。