1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 寺田倉庫の舞台裏 ーシェアリング NEXTINNOVATIONー
寺田倉庫の舞台裏 ーシェアリング NEXTINNOVATIONー

寺田倉庫の舞台裏 ーシェアリング NEXTINNOVATIONー

0人がチェック!

ここ数年に大きなブレイクスルーを起こした、「シェアリングビジネス」。世界的にも成長マーケットとして期待が集まる中、一般的になりつつある民泊やカーシェアだけでなく、ファッションアイテムのシェアなど斬新なビジネスモデルが続々と誕生している。

しかし、物品のシェアには、適切な商品管理や物流システムなど、さまざまなノウハウと施設が不可欠。こうした中、大きな注目を集めているのが寺田倉庫だ。創業68年という老舗企業だが、2012年には業界初のクラウド収納サービス「minikura」をリリースし、大きな注目を集めた。

さらに今年8月にはシェアリングに特化したAPI開放型の物流プラットフォーム「minikura+」もローンチしたほか、10月17日(水)には「シェアリング NEXTINNOVATION」と題したセミナーも実施予定だという。

そこで今回は、同社の倉庫業界のイメージを越えた展開や今後目指す世界観について、専務執行役員の月森正憲氏とMINIKURAグループの姫野良太氏にお話しを伺った。

【写真右】 寺田倉庫 専務執行役員 MINIKURA担当 月森 正憲 氏

1998年、新卒で入社し物流事業部に配属。約7年間、倉庫の現場業務に従事した後、ロジスティクスの法人営業や企画職を経て、新規事業開発室に異動。2012年の「minikura」リリースを皮切りに、新サービスを続々と生み出し、その企画・開発・運営の陣頭指揮を執る。

【写真左】 寺田倉庫 MINIKURAグループ MINIKURAチーム 姫野 良太 氏

法人向けOA機器の営業職や大手クレジットカード会社のWeb事業部などでキャリアを重ねた後、2016年に「minikura」の魅力に惹かれ寺田倉庫にジョイン。現在はminikuraチームにて、API管理やアライアンス系プロジェクトのマネジャーなどを務める。

拡大路線ではなく、ユニークな創意工夫で戦いたい。

――寺田倉庫さんは既存の倉庫業だけに縛られない「minikura」のような新事業を創出されています。こうした変革は、どのように始まったのでしょう?

月森氏 : 当社は1950年に創業し、一番最初はお米をお預かりする事業からスタートしました。そこで当時の先輩たちは、「お米に最適な空間って何だろう?」「どんな取扱い方がベストなんだろう?」と必死に考えて、少数ながら創意工夫で評価を得てきた。そうしてニッチ市場を開拓し、その中でナンバーワン・オンリーワンを目指してきたDNAが、寺田倉庫の根底にあるんですね。

――創業時から、ユニークな取り組みをされてきたわけですね。

月森氏 : そうですね。ただ、90年代のバブル期を経て、業界全体が物流センターの大規模開発がトレンドになり、さらには個人向けトランクルーム事業の流行に合わせて不動産業界など異業種も参入してきた。こうした中で、我々も拡大路線の中で競争せざるを得ない時代になりました。

しかし今から7年ほど前に、今の社長の中野(当時副社長)がこのままではいけないと。「寺田倉庫のDNAに立ち返って、我々にしかできないことをやろう」と発信し、そこから新事業の創造や資産のスリム化といった改革が始まりました。

――その改革の旗印となったのが、「minikura」だったわけですね。

月森氏 : はい。私は当時、新規事業開発室という部署に所属していたのですが、「次世代のトランクルームサービスを生み出そう」というテーマが持ち上がりました。というのも、当時のトランクルーム事業は何を預かっているのかも分からず、スペース貸しと契約・解約の手続きなどがメイン。我々の介在価値がほとんどないとも言える状態だったのです。

――なるほど。

月森氏 : 一方、倉庫事業の場合は、あらゆる商品の違いや特性をすべて把握し、それを踏まえて痒いところに手が届くような管理・物流を実践し、荷主さんからも重宝される存在になっていました。そこで、「法人向けサービスでできる以上、個人向けサービスでもできるはずだ」と考えまして。個人が箱単位で倉庫を持てて、しかも温度・湿度・セキュリティなどにこだわった物品管理を徹底するといった、「minikura」の企画骨子をまとめていったのです。

「minikura」で目指した、リアルからの脱却。

――新事業を創出する上で、どのようなビジョンをお持ちでしたか?

月森氏 : 大きなテーマは、「リアルからの脱却」ですね。当時、倉庫業界全体でWebへの進出が後手に回っていましたので、さらなるマーケットの拡大を目指すためにも会社をあげてWeb上でインフラを創っていこうと。ただ、社長の中野と私とではビジョンのスケールが違っていまして、それが最大の壁になりました。

――スケールの違い、と言いますと?

月森氏 : ひとつは料金設定です。単なるスペース貸しではなく、適切な物品管理を実現するには相応のコストがかかりますが、中野から急に「圧倒的な価格で世の中に広めたい。1箱50円でやろう」と。これはさすがにハードルが高すぎて面喰いましたが(笑)、企画やオペレーションを見つめ直して1箱200円という単価を実現しました。

――価格設定時に、そんなやりとりがあったんですね。

月森氏 : そうなんです(笑)。そしてもうひとつが、倉庫の規模の問題。私は当初、自社倉庫の空きスペースで始めるイメージだったのですが、「インフラにするためには、もっと大きく打って出るべきだ」という話が上がりまして。当社自体は資産のスリム化を進めていたので、東日本一帯でパートナー企業を探すことにしたんです。10社以上回って、ようやく仙台でビジョンに共感いただける物流会社さんに出合えたのですが、今思えばこれがminikura事業が拡大していく上で、一番大きなポイントになりましたね。

――「minikura」リリース後の社内の反応はいかがでしたか?

月森氏 : 正直言いますと、半信半疑という雰囲気でした。ただ、minikuraがwebメディアで取り上げられて、SNSなどで話題になったり。さらに、2013年にヤフーさんの「ヤフオク!」と連携した際に、当時“爆速経営”をうたっていたヤフーさん以上のスピードでシステム開発を行った結果、先方の経営陣の方から「うち以上に爆速ですね」という言葉をいただいたり。――そうした業界外からの評価を受ける度に、社内の意識がポジティブに変わっていきました。

APIの解放で、大手・スタートアップどちらの課題も解決へ。

――今年8月にはシェアリングビジネスに特化した「minikura+」もローンチされましたが、開発の経緯を伺えますか?

月森氏 : 我々は「minikura」を展開する中でAPIを開発し、アニメイトさんやバンダイさんといった大手企業と連携したサービスをさまざま展開してきました。そして、さらにスピード感を持って事業展開をしていくために、洋服レンタル事業を手がけるエアークロゼットさんなど物流に悩むスタートアップに対してAPIを提供するサービスを約5年間行ってきたんですね。

ただ、このサービスではどうしても人手と期間がかかってしまいます。そこで、開放型のAPIを新たに開発し、我々のシステムを使えば、シェアリングサービスや二次流通のCtoCサービスを企画している企業がが、俊足で物流システムを持てるような環境をつくろうと。そうした考えが形になったのが、「minikura+」です。

姫野氏 : 今年1月に構想が始まったのですが、その間にもエアークロゼットさんとの実績をきっかけに、大手・スタートアップを問わずさまざまなお問い合わせをいただいたんですね。そこで得た情報から、大手企業の場合は、管理画面やフロントサイトといった自社開発が難しく、スタートアップの場合はシステム開発はできても、物流ノウハウがない。また、新しい会社なので契約が難しいといった課題もありました。

――大手企業とスタートアップ、それぞれに別ベクトルの課題が見つかったわけですね。

姫野氏 : この両軸の課題に対して、APIをパブリックに公開することでもっと楽にシェアサービスをつくってもらったらいいのではないかと。我々が表に立つのではなく、「Webで完結するレンタルプラットフォーム」を設けることで、裏側でサポートしながら必要となるツールを作っていけないかと考えたわけです。

――「minikura+」に対する反響はいかがですか?

姫野氏 : おかげさまで、リリースから1週間で法人企業から30件以上のお問い合わせをいただいています。当初はアパレル・ファッション限定サービスとしてスタートしたのですが、「カメラ機材のレンタルサービスに用いたい」「キャンプ用具などを社員向けにレンタルできる仕組みを作って、福利厚生の一環したい」といった予想外の声もいただいて、成長への手ごたえを感じていますね。

――最後に、寺田倉庫さんが今後目指すビジョンを伺えますか?

月森氏 : 私たちは会社全体のビジョンとして、「文化創造」を掲げています。今後、シェアリングはひとつの「文化」になっていくと思いますし、さらに次の文化をつくるお手伝いも積極的にチャレンジしていきたいと思っています。

姫野氏 : そのためにもCtoCや買取・二次流通などに関するシステムもさまざま作り上げていきたいですね。

月森氏 : ゆくゆくの話ですが、たとえば当社のプラットフォームを倉庫業界のパートナー企業に提供できれば、その企業は新しいビジネスモデルを構築できるようになりますよね。いわば倉庫業界の”インテル”や”AWS”となって、多くの事業者が新しい挑戦を目指せる世界をつくっていけたら最高ですね。

取材後記

業界や既存事業の課題からブレイクスルーの種を見つけるだけでなく、将来的なビジョンを持って新事業の創出に取り組んできた寺田倉庫。大手・スタートアップを問わず、さまざまな共創実績を積み重ねたことで、「どのような企業が新事業を創出できるのか」といったノウハウも蓄積してきたという。「10月17日(水)開催のセミナー『シェアリング NEXTINNOVATION』では、そうしたお話しも実例を踏まえて紹介したい」と姫野氏は語る。シェアリングビジネスやCtoCサービスを検討中の方は、ぜひ参加をオススメしたい。

【『シェアリング NEXTINNOVATION』開催概要】

■日時 : 2018年10月17日 19:00〜(受付18:30)

■会場 : 東京ミッドタウン日比谷BaseQ

■参加費 : 無料

■対象 : 新規ビジネス企画、シェアリングビジネスを検討する立場の方(経営企画部、企画部門等)

※詳細内容は、コチラをご覧ください。

(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:古林洋平)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント0件