NTT東日本 | 地域課題を解決するイノベーションインフラへー第3期となる共創プログラム、始動。
東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)では、今年3期目となるアクセラレータープログラムをアップデートさせ、「NTTEAST ACCELERATOR PROGRAM LIGHTnIC」と題して実施する(最終応募締切 6/24)。
2017年のスタート当初は、社内の若手有志によって小さく始められた同プログラムだが、過去2回の開催を経て、採択企業との共創事業による実績も積み重なり、スタートアップ界隈での認知がかなり拡がってきた。昨年には、同社代表取締役副社長である澁谷直樹氏が同プログラムの主な実施部署であるビジネス開発本部の本部長を兼任することとなり、さらに12月にはそれまでの有志組織から正式組織へと再編され、同社が全社的な取り組みとしてスタートアップとの共創を目指す姿勢を社内外にアピールした。
日本の通信インフラを担う重要プレイヤーである同社が、なぜいま、アクセラレータープログラムに本腰を入れ始めたのか。また、スタートアップから見たときに同社との共創することの意義や魅力はどこにあるのか。
今回は、NTT東日本 代表取締役副社長/ビジネス開発本部長の澁谷(しぶたに)直樹氏、および、ビジネス開発本部でアクセラレータープログラム事務局として活躍している4名のメンバーに、同社が目指す共創のビジョンをうかがった。
スタートアップとの共創と地域との共生によって、NTT東日本が目指す世界
――澁谷副社長は、2018年に現職(代表取締役副社長、ビジネス開発本部長)にご就任なさっていますが、そこに至るご経歴を簡単にお教えください。
澁谷氏 : ご存じのように、NTT東日本は、昔は日本電信電話公社でした。民営化されたのが1985年で、私はその年に入社した民営化1期生です。
独占事業をしていた電電公社時代には「営業」という考え方がありませんでした。しかし、民営化された以上、変わっていかなければなりません。そこで、私たちの世代は、入社後に海外留学でMBAを取得する機会を与えてもらい、ビジネスやマーケティングについて勉強させてもらいました。それを実際に活かせる場としてサービス開発部(当時)が創設され、私はその初代メンバーとしてさまざまなサービス開発の仕事をしてきました。まだ音声中心の時代だったので、ダイヤルQ2やPHSなどの新サービスです。ビジネス開発に近いサービス開発で、大変面白くてやりがいのある仕事でした。
その後は、ネットワーク系の仕事や、人材開発系部署などを経て、震災後の福島支店で回線復興事業にも取り組んでいました。そして、2018年からビジネス開発本部長を担当しています。
▲NTT東日本 代表取締役副社長/ビジネス開発本部長 澁谷直樹氏
――副社長というトップマネジメントの立場である一方、スタートアップとの共創という不確定要素の多い現場にかかわることについては、どのようにお考えでしょうか。
澁谷氏 : 私はもともと新しいことにチャレンジするのが好きなのです。しかし私が若いときは、社内に「公社」の文化が色濃く残っており、新しいことをやろうと思ってもなかなか受け入れてもらえませんでした。ずいぶん悔しい思いもしたものです。
それで当時から、「将来、自分がそれなりの地位になったら絶対リベンジするぞ。新しいことをやって、会社と日本を変えてやる」という想いを持ち続けてきました。晴れてビジネス開発本部長になって、積年の想いがかなえられそうなので、とてもわくわくしていますね(笑)。
――経営トップの強いコミットがあることで、実働部隊である事務局メンバーも安心して動くことができますね。
澁谷氏 : 当社のアクセラレータープログラムを発案し、実行してきたのは若手や中堅のメンバーたちです。トップダウンで命令されてから動いたわけではなく、若手、中堅が自発的にボトムアップの形で作り上げてきた仕組みです。だからこそ、熱量が高くスピード感のある動きが可能になっているのだと思います。とはいえ、弊社は大企業なので、中核メンバーの熱量が会社全体に浸透するには、時間もかかります。そこでそれを後押しして、推進力を高めてやることが、私たちトップマネジメントの仕事だと考えています。
トップダウンだけでは新しい事業を自発的にドライブさせることは難しいですが、かといって、大企業の中で現場のメンバーだけでできることにも、限界があるでしょう。トップと現場とが同じような熱量を持って一丸となって動くことが重要だと思いますし、この点が、同様のプログラムを実施している他の企業さんでもなかなか見られない、うちの特徴ではないでしょうか。
▲澁谷氏と事務局メンバーの距離は近く、意思決定も迅速だ。
――トップと現場とが意思一致した全社的な取り組みをしていただくことは、共創するスタートアップにとっても、大きなメリットとなりそうです。澁谷副社長にとって、アクセラレータープログラムをはじめとしたスタートアップとの共創によって目指したい世界とは、どういうものなのでしょうか。
澁谷氏 : NTT東日本は、各地域に根ざした企業です。そしていま、日本の地域社会は疲弊し、少子高齢化や人手不足など多くの課題を抱えています。そこで、地域創生、地域活性化に貢献し、地域を元気にしていきたいという目標が、まずあります。ただ、一口に地域の課題といっても、多種多様なものがありますし、そもそも、どんな課題があるのかさえ、私たちだけでは把握できないこともあります。
そこで、スタートアップの方々に私たちに足りない部分を補っていただき、協力しあいながら、共に地域社会を盛り上げ、その未来を創っていきたいと考えています。
その意味で、ビジョン共有型であり、また社会貢献型でもある共創事業を創ることが、基本的な共創理念だと考えています。逆にいうと、IPOによるキャピタルゲインや、M&Aでのイグジットによる利益などは、メインの目標ではありません。もちろん、事業なので利益が出て回っていくことは必要ですが、そこには、どんな風に社会を良くしていきたいのかというビジョンを共有して頂ける方々と連携したいと思っております。
――地域の課題を解決するにあたっては、どんなことが求められるのでしょうか。
澁谷氏 : 私は、福島で支店長も長くやっていました。地域に根ざして暮らしてみるとよくわかるのですが、その地域ごとに、広く知られてはいないけれど実は素晴らしいというものがたくさんあります。また、それを日本中、世界中に発信したいとか、新しい産業や文化を創りたいといった熱い気持ちを持った人も、たくさんいます。しかし、それをまとめ上げるファシリテーターが少ない状況です。
また、AIやIoTの技術・知識を持つ人材も圧倒的に足りていません。そのため、せっかくのいいものが埋もれてしまったり、あるいはいい企業が人手不足のために廃業を余儀なくされたりしています。
そこで、私たちがファシリテーターとなり、スタートアップの皆さんの技術・知識をお借りすることで、できることがたくさんあると思います。たとえば、農業であれば、野菜の生育をカメラで観測し、データを集めながら、異常事態が生じたらスマホで知らせてくれる。このようなシステムだけでも、非常に助かることがあるわけです。
私は「フィールド実践力」と呼んでいますが、地域の人と膝を交えて話し、時には一緒に飲みながら交流を深め、現場で実際に起きていることを教えてもらいながら、一緒にそれを解決していく、そういう力が一番求められているのではないかと思います。
――製品やサービスについて、実際に利用する現場からのフィードバックを得ながら、磨き上げ改善していくアジャイル開発的な手法は、スタートアップが得意とするところですね。
澁谷氏 : 弊社のカルチャーとして、技術的にも、法的、制度的にも、完璧な内容になってからじゃないと製品やサービスをリリースしない、というところがあります。そのこと自体は、社会インフラを担っている企業として必要なことなのですが、やはり新しいものを創るときのスピード感は損なわれますし、小回りがききません。
その部分を、スタートアップの皆さんの技術やサービスに積極的に頼っていきながら、一方では我々の全国に展開する2万人を越える高い技術力や営業力を持つフィールド社員と3000を越える電話局や光通信ネットワークなどのアセットの蓄積を利用してもらうことで、お互いの短所、長所を補いあってシナジーが生めればと思います。そして、日本の地域を元気にする仕組みを、どんどん創っていきましょう。
事務局メンバーが考える、第3期アクセラレータープログラムの目指す世界観
――澁谷副社長には、NTT東日本アクセラレータープログラムが目指すビジョンや取り組み体制の大枠についておうかがいしました。事業部の皆さまには、アクセラレータープログラムのより具体的な内容についてお聞きしたいと思いますが、最初にみなさまの自己紹介をお願いします。
山本氏 : 私は法人営業から、6年程前にビジネス開発本部に異動になりました。ビジネス開発本部では、もともとは、大企業をパートナーとしたアライアンス事業を主に担当していました。しかし、他社のさまざまなアクセラレータープログラムやオープンイノベーションの取り組みを知るにつけ、弊社にもそうした仕組みが必要だと思い、有志を集めて企画書を作って会社に対して起案。2017年にまずはベンチャー企業の皆様にこちらからお声掛けして、クローズドで第1期のプログラムをやらせてもらいました。以後ずっと事務局メンバーとして関わらせてもらっています。
▲NTT東日本 ビジネス開発本部 第二部門 アクセラレーション担当 山本将裕氏
秋田氏 : 北海道出身なのですが、地元を元気にしたいという理由で入社したので、地域活性化にとても関心があります。パートナー企業と協業した新ビジネス開発を長くやってきましたが、去年の12月に事務局が正式に組織化された際、マネージャーとして任命されました。
▲NTT東日本 ビジネス開発本部 第二部門 アクセラレーション担当 担当課長 秋田純氏
実松氏 : 新入社員時代は支店でSEをやっていました。ここ6年くらいはビジネス開発本部に所属し、ビジネスホンの開発、光コラボレーションモデルに関する営業、映像配信サービスやクラウドサービスの営業に携わっておりました。アクセラレータープログラムには、担当化する前に有志メンバーとして参加させてもらっていました。今回から、本メンバーという形で所属しています。
▲NTT東日本 ビジネス開発本部 第二部門 アクセラレーション担当 主査 実松佳奈氏
遠藤氏 : 入社後6年間は、小売店への光の販売を中心とした営業と弊社事業部メンバーの方針を策定する企画業務などをやっていました。山本らとともにアクセラレータープログラムを立ちあげ、組織化以降も引き続き事務局メンバーとして関わらせてもらっています。
▲NTT東日本 ビジネス開発本部 第二部門 アクセラレーション担当 遠藤正幸氏
――アクセラレーターは、今回で3期目を迎えます。1、2期の経験や成果を踏まえた上での、今回のプログラムの目的について教えてください。
山本氏 : 1期目は、クローズドで小規模な、いわば実験的な形でスタートしましたが、幸いにも、空満情報プラットフォームの株式会社バカンさんや、IT教育プログラムを実施しているライフイズテック株式会社さんなどとの共創事業で、大きな成果を上げることができたのです。まだ至らぬ点も多かったのですが、一緒に並走していただき私たちも自信がつく部分や課題が明確化したので、社内でも評価され、有志での取り組みからビジネス開発本部全体としての取り組みへと陣容が拡大して、ネットワークサービスの主幹部署やWi-Fiサービスの開発をしている部署などからも人が集まってくるようになりましたね。
これによって、スタートアップの皆さんから見ると使えるアセットが大きく拡大し、おかげさまで、2期では12社との共創が可能になりました。3期については、先ほどの澁谷の話にもあったように、「地域課題の解決」という点にフォーカスして、より広範に現場と協力していきながら進めていきたいと考えています。
遠藤氏 : 今回の3期に関しては、いま山本が話したように「地域課題の解決」ということを大きなコンセプトの1つとして掲げていますが、それ以外に2つのコンセプトがあります。
まず、地域課題と向き合っているNTT東日本の各組織や協業パートナーによる「課題解決型事業」に、よりフォーカスしたいと考えています。これは、当社や協業パートナーが課題解決型のアプローチを展開していくなかで、スタートアップとの協業によって生み出す新たなソリューションを提供していくことで、当社とスタートアップがともに成長していけると思っております。これが2つ目のコンセプトです。
そして、3つ目のコンセプトとなるのが、グループ全体での共創の連携を強めることです。私たちのグループ会社には、通信関連はもちろん、不動産に特化した会社や介護事業を提供する会社など、様々な事業会社があります。これらグループ全体の事業基盤をアセットとして利用していただくことにより、スタートアップの皆さんに活躍していただける共創の可能性が、大きく広がると考えています。
――その他に、今回のプログラムを通じて御社と共創することで、スタートアップにとってはどんなメリットが想定されるでしょうか。
秋田氏 : 私たちは、光サービスのお客様だけでもおよそ全国に1200万件のお客様がいて、そのお客様がいるエリアには、必ず営業や販売、設備工事や保守の部隊がいます。さらに、約600の販売協力会社もあります。こういった事業基盤をアセットとして、ご活用いただけることが、大きなメリットだと思います。人的リソースの少ないスタートアップでも、営業にはじまり、機器の設置や保守、さらにはサポートなどが、全国規模で実施可能になります。
たとえば、先ほどの話に出たバカンさんの例では、お客様からのお問い合わせや申し込み受付、あるいは保守対応などについて、弊社のコールセンターで対応しています。また、北海道の大丸札幌店にバカンさんの機器を導入していますが、その際もうちのスタッフが設置工事をしました。
スタートアップの中でも、とくに「モノ」を扱うIoT系事業の場合、NTT東日本が持つ、全国の工事基盤は、非常に親和性が高いのではないかと思います。
実松氏 : それに加えて、私たちは料金の請求・回収代行も行えます。要は、電話代と一緒に請求・回収できるということです。これも、信用力やビリング業務に課題を持たれているスタートアップにとって、大きなメリットになると考えられます。また、サービスを利用なさるお客様にとっても、ワンストップで支払いができるのは利便性が高いので、それ自体でサービス導入の動機のひとつとなり得ます。
山本氏 : 非常に優れた技術力やサービス力を持っているスタートアップでも、それ以外の社内機能をすべて自前で揃えるのには、かなり時間がかかります。一方、私たちは、全国規模での営業、販売、工事、保守やサポート対応、料金の請求・回収、こういったすべてに一元的に対応できる総合力があることが、特徴であり、スタートアップの皆さんにとってのメリットだと思われます。もちろん、私たちの本業である通信分野での技術シナジーも可能です。
私たちとの共創で、ノンコア機能を補完していただくことで、スタートアップはコア機能に経営資源を集中でき、成長スピードを飛躍的に早めることが可能だと思います。
――皆さんは、非常に熱量を持ってスタートアップとの共創に取り組まれていると思いますが、御社のような大企業だと、その意識を隅々まで浸透させるには障害もあるのではないでしょうか?
遠藤氏 : 私たちがスタートアップの皆さんと協業する際には、2年とか3年とか、ある程度長期的な視点での事業のグロースを考えます。しかし、弊社内の他部署なり、現場の営業担当者は、もっと短いスパンでの成績を気にせざるをえない事情もあります。そこで、そのギャップを埋めるために、たとえば、共創事業による商品を販売した場合も、自社商材と同等のインセンティブを与えるような評価設計を一部で採用しています。これによって、短期的な視点からも販売モチベーションを高めることが可能です。
秋田氏 : 通信がコモディティ化となったいま、新たなソリューションやアプリケーションを求めています。そこで、弊社の支店などでは「面白い商材があれば、ぜひお客様のところに持っていきたい」と考えている担当者は多いのです。そこにニュースリリースで“今度共創事業でこういった新しいサービスを始めます”といった情報を送ると、非常に注目されて関心が高まります。「次はなにやるの?」みたいなことを聞かれることも、よくあります。そういう意味で、障害というより、むしろ協力の姿勢が全社的に拡がっているのが現状だと感じます。
――では、最後に、こんなスタートアップにはぜひ応募してもらいたいというメッセージをお願いします。
山本氏 : 個人的には、通信トラフィックを使うような映像系、AIとIoTを絡めたようなサービスなどの事業だと、私たちが数多く持っているNW基盤や、局舎を活用したエッジコンピューティングなどの可能性が開けて面白いかなと考えています。また、実証で終わりではなく、一緒に事業化していくところにもコミットしていきたいと考えております。
実松氏 : NTT東日本を変えてしまうような、斬新なアイディアを求めています。今回、「地域課題×◯◯」という形で6つのテーマを用意しましたが、「地域課題×ディスラプト」を掲げているのは、まさに私たちの想像の範囲を超えた着想を持っているスタートアップに来て欲しいという想いを表しています。
秋田氏 : 迅速に前に進めるために我々は行動します。エントリーいただく皆様と地域社会に真摯に向き合って行動いたします。数多くのパートナーをお待ちしております。
遠藤氏 : 日本は、世界に例を見ない速度で少子高齢化が進んでいますが、今後、中国など各国の先進国においても少子高齢化の流れは進んでいきます。つまり、日本は「課題先進国」でもあるということです。ですから、そこで生まれる課題を解決できれば、それをステップにして世界に飛び立っていけると信じています。ぜひ一緒に、そんな夢を追いかけていければと思います。
取材後記
澁谷副社長には、NTT東日本という大企業の副社長とは思えないほど、現場目線でフランクに、スタートアップとの共創に寄せる熱い想いを語っていただいた。また、事務局の4名の方たちは、いずれも着実に実績を積み上げてきた中堅メンバーで、まさに脂が乗っている。この方たちなら、スタートアップの意気込みを受け止めて、きっと地域社会の未来を変えていけるだろうと感じられる取材となった。
「NTTEAST ACCELERATOR PROGRAM LIGHTnIC」の最終応募締切は6/24。ぜひ、NTT東日本と手を組み、地域を変え、日本を変える革新的な事業に挑戦してほしい。
(構成:眞田幸剛、取材・文:椎原よしき、撮影:古林洋平)