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「Yume Pro」第2期スタート | OKIのイノベーションプロセス構築の“仕掛け人”が語る、新たな方向性とは?<後編>

「Yume Pro」第2期スタート | OKIのイノベーションプロセス構築の“仕掛け人”が語る、新たな方向性とは?<後編>

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2017年よりイノベーション活動を推進している沖電気工業(OKI)。2018年4月にはイノベーション推進部を発足させ、イノベーション創出活動「Yume Pro」(ユメプロ)もスタート。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)に提示された社会課題をもとにテーマを設定し、さまざまな共創パートナーとオープンイノベーションを進めている。さらには、社内でのイノベーション文化醸成のための教育も進めるなど、急ピッチに変革に取り組んでいる。

2019年4月、「Yume Pro」は第2期を迎えた。イノベーション推進部部門長に、OKIのイノベーション活動初期から携わる藤原雄彦氏が就任。今期は「ヘルスケア」「物流」「まちづくり」「海洋保全・資源」をテーマに据え、社内連携もより強化し、新たな事業機会の創出を目指すという。

――より進化を遂げたOKIが描く未来、そして今後の「Yume Pro」の方向性とは?昨日掲載した<前編>に続く藤原氏へのインタビュー<後編>では、第2期「Yume Pro」が掲げるテーマの詳細や具体的な未来像についてお話をうかがった。

▲沖電気工業株式会社 経営基盤本部 イノベーション推進部 部門長 藤原雄彦氏

1987年入社。交換機の開発に従事し、局用交換機サブシステムのプロダクトマネジャーとしてアトランタに駐在。帰国後はモバイルルータの商品企画、マーケティング部長、共通技術センタ、情報通信事業本部 IoTアプリケーション推進部 部門長を歴任。イノベーション推進には準備期間から携わり、2019年より現職。

■4つのテーマにおいて、OKIが描く2030年の姿とは

――今期の「Yume Pro」では、「ヘルスケア」「物流」「まちづくり」「海洋保全・資源」という4つのテーマを明確に掲げていらっしゃいます。これらのテーマは、どのような背景で決定されたのでしょうか。 

藤原氏 : 既存事業部が取り組んでいない、より中長期的なテーマということで、この4つを設定しました。SDGsのゴールは2030年であるためです。各テーマの設定においては、ゴールとして目指す「大目的」をまず明確に示すことで、関わる人々の方向性がブレないようにしました。

――次に、各テーマにおける方向性と、施策について伺っていきたいと思います。まずは、「ヘルスケア」からお願いいたします。 

藤原氏 : 大きな目標としては、2030年に向けてSDGs3.4のターゲットである「非感染症疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する」の実現です。

今年の4月12日、経済産業省の次世代ヘルスケア産業協議会において2019年度のアクションプランが発表されました。その中で、「健康経営等に資する効果的な行動変容サービスの開発と普及」と「生活習慣病の重症化予防に資するPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)サービスの普及展開」の重要性が記載されています。

そうしたサービス開発のためにまず必要となるのが、行動データです。そこで、2020年をめどに「行動データの収集と見える化」に取り組んでいます。ここで強みとなるのが、OKIのIoT通信技術やデータ所有者を特定する特許です。一方で行動データというのは簡単に取れるわけではありません。そこで、医師など有識者ともアライアンスを組み、アドバイスを得ながら正しいデータの収集を進めています。

――なるほど。

藤原氏 : そのようにして収集した行動データを蓄積・分析することで、2022年までには「行動変容サービス開発に向けたエビデンスの構築」に取り組みます。行動データを安全に流通させるためにブロックチェーン技術を活用したり、既存サービスとの連携を進める予定です。

そして行動データの傾向から健康状態を量るノウハウを習得し、2025年には「行動変容サービス開発・普及」を実現させ、2030年につなげていきたいと考えています。現在、これをもとに保険会社や製薬会社と共に、認知症や糖尿病などの早期検知と予防についての共創活動を進めている最中です。

――次に、「物流」領域についての方向性はいかがでしょうか。

藤原氏 : 現在、物流業界においては省人化・標準化が進み、サプライチェーンが完全自動化する「Logistics4.0」が進展しています。そこで、2030年までに目指すゴールとして「サプライチェーン構築の完全自動化」を設定しました。しかしながら、いきなり完全自動化を実現するのは非現実的です。そこでまずは小さな範囲からスタートし、大きな目標の実現を目指します。

具体的にお話しすると、OKIは『LocoMobi2.0(ロコモビ2.0)』という交通や物流のプラットフォームサービスを展開し、V2X(Vehicle to Everything)のネットワークの実証実験に取り組んでいます。このリソースをうまく活用することで、まずは物流業者2社間の連携の効率化に取り組んでいきます。サプライチェーン全体を見渡すと多様な業者が入り組んでいますが、細分化していくと最も多いトラブルは、物流業者同士2社間のやり取りにおける配送情報入力ミスなどのヒューマンエラーです。これは単純に異なるシステムを持つ2社が、出荷情報や配送情報を人間の手を通してやり取りをしているからです。

そこで、第一段階としては、相手に情報を簡易的に共有できる仕組みを提供し、事務作業を効率化してミスの削減につなげていきます。――実は、「つなぐ技術」もOKIの強み。最初は2社間でのやり取りからスタートしますが、さまざまな「2社」を繋ぎ続けることで、サプライチェーン全体をつなぐネットワークを構築。そして、AIシステム同士が連携し、サプライチェーンを自動で構築する世界を目指していきます。

――「まちづくり」というテーマは、かなり範囲が広いですが、どのような目標を掲げていらっしゃいますか。

藤原氏 : 日本は今、急速に進む高齢化、そして訪日外国人の増加により、新たな社会課題を抱えています。高齢者においては地域との繋がり、そして訪日外国人に対しては地方への観光もストレスなく快適にできる環境づくりが必要になるでしょう。そこで、2030年までに「人と社会をつなぐ地域活性化サービスの提供」を目指していきます。

現在、インバウンド旅行客のニーズと地域の隠れた魅力をマッチングするサービス、そして高齢者向けには地域コミュニティに人が集まる仕組みの開発を進めている最中です。

そしてOKIには、画像・位置・感情推定といった5感センシング認識技術と、AIエッジ端末があります。これらを活用することにより、人のリアルタイムでの感情や行動データを収集・分析。これにより、その時々の人の気持ちに寄り添った体験やサービスを提供できるような仕組みを作ります。最終的には、感情、行動、知識、環境をリアルタイムに収集・分析し、リコメンドするサービスを拡充し、地域社会の活性化に取り組んでいこうとしています。

――最後に「海洋」というテーマについては、先ほど藤原様ご自身がIoTアプリケーション推進部で携わっていらっしゃったと思いますが、イノベーション推進部で取り組むテーマとしては、方向性が異なるということでしょうか。

藤原氏 : その通りです。先ほどお話しした密漁監視システムは、海洋保全・資源の中の「警備・防犯」です。これは引き続き、事業本部側が商品開発にあたっています。

では、イノベーション推進部が取り組むテーマは何かというと、「海洋保全・資源」です。2030年までのゴールとしては、「海洋データインフラ活用サービス」。水中音響技術などOKIの強みを活用して、海中のあらゆるデータを収集し、それをもとに新しいビジネスを興そうとしています。

「海洋保全」というと漠然としていますが、海洋環境と関連性の高い産業として、漁業が浮かびます。近年、漁業の衰退も課題となっていますが、これは海洋環境の悪化と相関性が高いと考えられます。たとえば、最終的な需要が見えないがために乱獲、それが生態系の破壊につながり、漁獲量の減少にもつながるといったことです。つまり、OKIが収集した海中のデータなどを活用して漁業のスマート化と成長産業化を成し遂げれば、海洋環境の改善にもつながるはずだという仮説を立案しました。

これもまったく新しい領域のビジネスになるため、まずはスモールスタートで実績を作り、やがて漁業全体へ拡大させていきます。そして周辺の物流や小売・外食のニーズデータも分析し需給バランスを整え、スマート漁業の実現を推進します。

■大企業×スタートアップの“型”にとらわれず、大企業同士での共創も歓迎。 

――最後に、今回「Yume Pro」2期目の共創パートナー募集を行うにあたり、どんな関係性を築いていきたいか、メッセージをお願いいたします。

藤原氏 : オープンイノベーションの掛け合わせは、色んなカタチがあっていいと思います。現在は「大企業×スタートアップ」が主流で、各社アクセラレータープログラムやアイデアソンなど活発に開催していらっしゃいます。確かに、異質なもの同士の掛け合わせにより、革新的なビジネスが生まれるケースもあるでしょう。

しかし、必ずしもその組み合わせにとらわれる必要はないのではないでしょうか。特に日本においては、「大企業×大企業」の組み合わせでイノベーションが生まれるケースも多いと感じます。これはもちろん、トップ同士のコミットメントが大前提ですが、たとえば「SDGsのこのターゲットに対して、互いのこういったリソースを活かしてアプローチしよう」という場合は、大企業同士の組み合わせの方がスピーディーでインパクトの大きなビジネスを創出できるはずです。だからこそ、スタートアップから大企業まで、規模やステージにとらわれない共創関係をつくっていきたいと考えています。

そして最後に改めて伝えたいのですが、OKIは今期「Yume Pro」での新規ビジネス創出にさらに注力していきます。強みとしては、既存事業部を巻き込み、全社のリソースを活用していけること。そして、「Yume Proプロセス」という確固たるイノベーションプロセスがあることです。――「ヘルスケア」「物流」「まちづくり」「海洋・音響」、これらの領域で、本気でイノベーションを創出していきましょう。

■取材後記

大企業がそのリソースをフルに活かしてイノベーションを創出するには、既存事業部との連携が不可欠だ。イノベーション担当部門が奮起したとしても、他の事業部がそこに続かなければそのリソースは絵に描いた餅。いかに周囲を巻き込み文化を根付かせるか、難しい課題だ。

OKIはその点、イノベーション活動の初期から社外向けのプロモーションと同時に、経営陣をはじめとした社内の意識改革に地道に取り組んできた。撒き続けた種は芽を出し、着実にその土壌は変化してきている。大企業としてのリソースをしっかりと活かせる風土を着実に築き上げた今だからこそ、大きな社会課題に向かっていける時ではないだろうか。

本格的な新規ビジネス創出に向けて、「Yume Pro プロセス」という独自のイノベーション創出プロセスを築いていることも、頼もしい。4つのテーマに関連があり、課題感のある企業は、ぜひ声を掛けて欲しい。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)

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  • 栗山 彩香

    栗山 彩香

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  • MIwako Tamotsu

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  • Ayuko Nakamura

    Ayuko Nakamura

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    ヘルスケア、まちづくり…範囲が広そうなテーマだが中身はかなり明瞭でマイルストンがリアルな実現への道を感じさせる。
    
    2030年「非感染症疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する」の実現に向けて
    2020年「行動データの収集と見える化」
    2022年「行動変容サービス開発に向けたエビデンスの構築」
    2025年「行動変容サービス開発・普及」を実現させ
    2030年に繋げていく