原体験談。
こんにちは。新規事業の専門職の守屋です。
「社会人になってから、30年間、新規事業一筋でやってきましたっ!」と言うと「原体験はなに?」と質問されることが多いです。じつは、原体験はいくつもあって(笑)、これだっ!という決め手の体験と言うよりは、らせん階段を上るように、日々いろいろ何度も何度も経験を重ねるなかで、時間を掛けて今がカタチ作られた、というのが一番正確な気がしています。
なので、原体験は、「長期的で断続的な量稽古」ってな感じなのです。
ただ、それを全部書くと不要に長編になるというか、そもそも書き切れる文才がないので、そのなかでも、いまこれを書きながら、原体験の親玉のひとつ、と思った動物病院事業について、書いてみたいと思います。その事業は、1997年、自分が27歳のときに立ち上げました。
「動物病院向けのアスクル」ってな感じの事業です。
会社でアスクルを使うと、コピー用紙やクリアファイルを注文すると思うのですが、動物病院でアスクルを使うと、ペットシーツやドックフード、手術で使うメス、処置で使うガーゼ、包帯、注射器・・・となるのです。イメージ、伝わります?じつはこの事業、とってもとってもとっても、難産でした。いくつか難産のポイントがあるのですが、例えば、
・ミスミにとって初めての飛び地の新規事業だった。
・自分が、サラリーマンの延長線上の取り組み姿勢だった。
・規制産業に突っ込む系だった。
・業界のプロ、起業のプロを入れなかった。
・成長のプロチームを創らなかった。
あたりが主なポイントではないかと思います。
・ミスミにとって初めての飛び地の新規事業だった。
ミスミは金型の部品商社でした。当時、国内の顧客が海外にどんどん出ていくなか、国内の伸びを維持、むしろ拡大することを目論み、飛び地に手を広げることに。初めての経験だったので、「どうやって広げていくのがイイか?」を、マッキンゼーに相談することにしました。ここまでは、難産の原因と言うよりは、むしろ、良かった点だと思っています。(詳しくはまたいつの日か)
・自分が、サラリーマンの延長線上の取り組み姿勢だった。
マッキンゼーからは、いま考えても、とっても良いアドバイスをもらいました。が、そのあとがマズかった。自分は、「マッキンゼーのアドバイスをもとにちゃんと考えて突き進んでいった」のではなく、「マッキンゼーの言っていたこと、会社が承認したことをトレース」して事業展開してしまったのです。新規事業なのだから、「顧客を見て、仮説をぶつけて、反応を見て仮説を磨き込み、再度仮説をぶつけ直して・・・」を、ひたすら高速無限ループすべきだったのに、会社を見て仕事をしてしまったのです。ここ、致命傷でした。
・規制産業に突っ込む系だった。
しかも、突っ込む先が、規制産業系でした。なので、その業界の内側の人でしか分からない、外からは分かりにくい部分が過分にあり、だから「同じ医療市場」に突っ込んでいくにしても、病院、診療所、歯科医院、動物病院、検査センターと、隣接するであろう分野なのにまったく土地勘が利かず、初歩的なミス、先のない道順の選択など、大小あらゆるミスを連発してしまいました。
・業界のプロ、起業のプロを入れなかった。
そんな惨状だったので、どう考えても、「業界のプロ」と「起業のプロ」をチームに入れるべきでした。が、業界の門外漢の自分が、起業の素人だった時代に、ミスミの仲間だけで、突っ込んでいきました。結果は、さんざんでした。当時の関係者のみなさん、本当に、ごめんなさい。
・成長のプロチームを創らなかった。
そうした、「不要な試行錯誤、難産」を経て、それでも、何とか事業が成長軌道に乗りました。わずか二人で立ち上げた「動物病院向け通販事業」は、初年度売上高3億円、その後、7億円、10億円、14億円、17億円、20億円と、総勢6人のチームで、6年で20億円の売上高を創り上げるとが出来ました。が、スケールする勝ち筋を見つけ、その勝ち筋を成長させられるチームで一気に拡大成長させていく、という考えがなく、立上げた仲間と立ち上げたモデルで出来る限り頑張る、と言うことをやってしまいました。成長のプロチームを創っていたら、事業は、最もっと成長していたに違いません・・・。
守屋実株式会社守屋実事務所
1992年ミスミ入社、新規事業開発に従事。 2002年新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口氏と創業、複数事業の立上げおよび売却を実施。 2010年守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立上げに参画、副社長を歴任後、博報堂、サウンドファン、ブティックス、SEEDATA、AuB、みらい創造機構、ミーミル、トラス、JCC、テックフィード、キャディ、フリーランス協会、JAXA、セルム、FVC、日本農業、JR東日本スタートアップなどの取締役など、内閣府有識者委員、山东省人工智能高档顾问を歴任。 2018年にブティックス、ラクスルを、2か月連続で上場に導く。 著者に「新しい一歩を踏み出そう! 」(ダイヤモンド社)がある。
株式会社守屋実事務所