
オープンイノベーション型で新規事業をおこなう際に必要な考え方【前編】
前回まではオープンイノベーションの結び目の見つけ方と、オープンイノベーションシナリオを持つことこそがオープンイノベーションの戦略を立てることであると解説してきました。
では、これで実際にオープンイノベーションが成功するかといえば、そう簡単ではありません。
これまでも弊社blogでは、新規事業を成功させるためには
・外部と組み、外部人材を活用すること
・その際に必要な起業家の考え方をインストールすること
が重要です。
順番としてはまず、この起業家の考えかたを学んでいく必要があります。
連続して成功している起業家たち(シリアルアントレプレナー)はどのようなものの考え方をしているのか、多くの起業家を見てきた私が見つけた彼らに共通する9つの点から、イントラプレナー(社内起業家)や起業家に必要な、起業家脳の作り方をまとめたのが拙著「2回以上、起業して成功している人たちのセオリー」(2013,アスキー新書)です。
アメリカではエフェクチュアルアントレプレナーシップというシリアルアントレプレナーの研究が進んでいて、以前私はサラス・サラスバシーの「エフェクチュエーション」という起業家研究の本の翻訳をサポートしました。
そこで、日本人でも連続起業している人は同じような考え方をしているのではないかと考え、インタビューしてまとめたのが、前述した「2回以上、起業して成功している人たちのセオリー」なのです。
成功している起業家たちの考え方を学ぶことで、企業内での新規事業担当者のみなさんの考えかたが、いかに新規事業を成功させることとは真逆に向かってしまっているかを、まず理解する必要があります。
今回はこの本の中でもご紹介している起業家の考えかたのひとつをご紹介します。
成功している起業家は「自分は運がいい」と信じている
連続して成功している起業家に共通することのひとつとして「自分は運がいいと信じている」というセオリーが存在します。「運」という言葉は一見非科学的ですが、「タイミングを掴むための努力の結果」という風に私なりに分析しています。
というのも、成功している起業家たちはみな、すごくタイミングを重視しているのです。
同じことをやる、言う、撤退するにしても、すべてどのタイミングでやるかで結果は変わってきます。つまり、どんなに正しいことを考えていても、タイミング次第でいいことになったり、悪いことになるということを肌感覚で知っているのです。
彼らはみな、自分たちにとって最適なタイミングに乗れるようにしっかり準備していたり、今はタイミングとしてよいかどうかを分析していたりします。
努力すべきことを努力して準備しているので、一般の人が考える「運がいい」とは若干ニュアンスが違ってきますが、このことから分かるのは、イントラプレナー(社内起業家)だとしても、普段の仕事の何倍もタイミングを重要視したほうがいいということです。
起業家の方たちがみな「自分は運がいいと思っている」と聞いた時、もうひとつ思い浮かんだのは、ハピネスアドバンテージの法則です。
誤解をおそれずに単純化していうと、「成功した人が幸せになれるのではなく、最初から幸せなマインドの人が成功する」という逆の因果もあるのではないかということです。
では、起業家にとってのハピネスアドバンテージとは何なのかを、インタビュー中の会話の中から、私なりに分析してみた結果、彼らは、一見普通の人からみたらトラブルとしか思えないようなつらいことが起こった時、「そのトラブルにこそチャンスがある」と考える、発想のフレームワークを持っていたのです。
危機であると思えば危機でしかありませんが、「自分は運がいいんだからこの中にチャンスがある」と思えたり、「これは意味があることなんだ」と目の前のトラブルに対峙したりすることで、結果、ピンチを起死回生のチャンスに繋げているのではないかと感じました。
自分なりにポジティブに転換することで、実際に前向きなアクションにつなげたり、クリエイティビティを発揮したりすることができるのではないでしょうか。
これが私の考える「成功している起業家は自分は運がいいと信じている人が多い」という理由です。
これはある種の創造性を発揮するためのマインドセットでもあり、自分は運がいいと信じている人は、クリエイティブに目の前のトラブルにチャレンジしているのだと思います。
これは実際に社内起業経験のある私自身にも当てはまるものでした。
これは、一般的なポジティブシンキングとは違うという点が重要です。
ケガしたときにたとえると、「ケガをしたけど命は助かった、良かった」と現状をポジティブに受け入れているように見えるポジティブシンキングですが、狭義のポジティブシンキングは、「良くないことが起きたけど、もっと良くないことがあったかもしれない」という意味も混ざっています。
一方、「ケガをした、ここになにかチャンスがあるはず」「脚をケガしたから腕を鍛えることができる」と考えるのが起業家です。災いをどうチャンスとして捉え、行動につなげられるかが、起業家にとってのハピネスアドバンテージなのです。
新規事業部のマネージャーになる人は、常にこの「ハピネスアドバンテージ」の考え方を意識し、なにかトラブルがあれば「ピンチをチャンスに変えていこう」とするのが正しいコーチングであり、その空気を一緒に作っていくのが新規事業部のマネージャーのあるべき姿といえます。
新規事業とはそもそも未開の領域をいくわけですから、体験したことのないアクシデントはつきものです。そのアクシデントをどう捉えるか、チームとしてもこの考え方を共有することは失敗しない新規事業部として重要な成功例を生み出すでしょう。
以上、簡単ではありますが、起業家と社内起業家との考えかたの違いについて解説しました。
弊社blogではこれらのセオリーについてさらに詳細に解説しています。また、さらなるセオリーについて知りたい方は、ぜひ「新規事業を成功させる起業家脳の作り方~新規事業立ち上げに必要な考え方のセオリー」を御覧ください。
さらに、これらの考えかたを活用した新規事業の進め方については近日発売予定の「コーポレートアントレプレナーバイブル」で詳しく解説しています。
語り:宮井 弘之。SEEDATA代表。
構成・文:松尾里美。SEEDATAエディター。

宮井 弘之株式会社SEEDATA
2002年、博報堂に新卒入社。情報システム部門に配属後、博報堂ブランドイノベーションデザイン局へ。新商品・新サービス・新事業の開発支援に携わり、2015年に社内ベンチャーであるSEEDATAを創業。 【株式会社SEEDATAについて】 2015年に博報堂DYグループ内に設立され、300を超えるプロジェクトでオリジナルの知見とネットワークを企業に展開。 “先進的な生活者群(=トライブ)の行動や発言に、隠された心理や価値観を発見することで、5年先の生活者ニーズを明らかにすること”を、ミッションに掲げる。主に「インテリジェンス事業」と「インキュベーション事業」の2つのアプローチで、クライアント企業のイノベーション支援を手がけている。
株式会社SEEDATA
代表取締役CEO