オープンイノベーション型で新規事業をおこなう際に必要な考え方【後編】
当ブログではこれまで、オープンイノベーションの結び目の見つけ方と、オープンイノベーションシナリオを持つことこそがオープンイノベーションの戦略を立てることであると解説してきました。
そして前回から、新規事業を成功させるために必要なものの考えかたについて解説しています。
連続して成功している起業家たち(シリアルアントレプレナー)はどのようなものの考え方をしているのか、多くの起業家を見てきた私が見つけた彼らに共通する9つの点から、イントラプレナー(社内起業家)や起業家に必要な、起業家脳の作り方をまとめたのが拙著「2回以上、起業して成功している人たちのセオリー」(2013,アスキー新書)です。
前編では成功している起業家は「自分は運がいい」と信じているというセオリーについて解説しました。
後編では「競合より協業」という起業家の考えかたをご紹介します。
成功している起業家たちが"競合より協業"を選ぶ理由とは
大手企業出身者にビジコンで事業計画を書いてもらったり、大手企業の中の社内コンテストの審査員の会話を見ていたりすると、必ず「競合にどうやって勝つのか?」という話が出てきます。
ところが、実は競合にどう勝つのかというのは、市場が確定している場合の話になります。プロダクトライフサイクルには、最初に生まれたとき、黎明期、成長期、成熟期、衰退期があり、競合が必要となるのはおもに成熟期です。成長期も必要となる場合はありますが、黎明期と衰退期には競合に勝つという考え方はそこまで重要ではありません。
しかし、ほとんどの大手企業や老舗企業の方が生きてきた世界は、よくて成長期の後半、ほとんどは成熟期なので、徹底的に競合に対してどう勝つかを教えられてきたはずです。
また、ほとんどのMBAの授業でも、
・競争戦略やポジショニングをどうするか
・どう競合に勝つか
・どう差別化するか
ということを徹底的に教え込まれるため、結果、競合にどこでどう勝つのか、または競合がいるからやめよう、もしくはこのビジネスは競合がまったくいない、という考えかたになってしまいがちです。
新規事業で成功するという観点からみると、実はこれはどれも間違っていて、まず、企画書に「このビジネスに競合はいない」と書くのはいちばんダメなパターンで、私がビジネスコンテンストの審査員の場合はまず通しません。
自分が生活者の立場で考えれば分かることですが、これまでにない新しい商品やサービスが出た時、それらを選択するためには、必ず今まで何かほかに使っていたお金や時間を振り分けることになるので、お金や時間上の競合は存在します。
また、競合がいるということは、そのマーケットに需要があるということでもあるので、むしろ少しは競合がいたほうがよいでしょう。
ジャンルとしては新しくて競合がいないように見えても、お金や時間の競合はどこかにいるはずなので、それが見えていない時点で、まさに裸の王様のようなビジネスアイデアになっている可能性があります。
また、競合にどう勝つかを精緻にだしてくるパターンがありますが、企画書上どんなに優れていても実際には難しいので評価しません。
それよりも、競合を倒すのではなく、競合とどう組むのか、どう競合の力を使いながら自分たちのポジションを確立するかを企画書に盛り込んでいるかを重視します。これが競合ではなく協業という概念です。
では、実際にベンチャー企業はどのように「競合より協業」をおこなっているのでしょう。
この場合、実は出資を受けるというのが最強のディフェンスになります。
大企業が小さな会社から自社がまだやってない分野に関して出資を持ちかけられた場合、自分たちで新規に事業を作るよりも、とりあえず一回組んでみようとなりやすく、最終的に袂をわかつことになったとしても、少なくとも相手はその分野に入るのは遅れるため、時間稼ぎにもなります。
大手と組む話をしてる間にこちらがその分野で強くなってしまえば、相手はこちらと組まざるを得ない、もし組まなくてもその分野において相手より強いポジションを築いているので、どちらにしても生き残ることができる。これが競合と組むことの真の意味なのです。
実際にベンチャーが大手と組むというアプローチをするのには枚挙にいとまがなく、出資してもらう、データを売る、営業協力するなど、方法はさまざまです。
弊社blogではこれらのセオリーについてさらに詳細に解説しています。また、さらなるセオリーについて知りたい方は、ぜひ「新規事業を成功させる起業家脳の作り方~新規事業立ち上げに必要な考え方のセオリー」を御覧ください。
さらに、これらの考えかたを活用した新規事業の進め方については近日発売予定の「コーポレートアントレプレナーバイブル」で詳しく解説しています。
語り:宮井 弘之。SEEDATA代表。
構成・文:松尾里美。SEEDATAエディター。
宮井 弘之株式会社SEEDATA
2002年、博報堂に新卒入社。情報システム部門に配属後、博報堂ブランドイノベーションデザイン局へ。新商品・新サービス・新事業の開発支援に携わり、2015年に社内ベンチャーであるSEEDATAを創業。 【株式会社SEEDATAについて】 2015年に博報堂DYグループ内に設立され、300を超えるプロジェクトでオリジナルの知見とネットワークを企業に展開。 “先進的な生活者群(=トライブ)の行動や発言に、隠された心理や価値観を発見することで、5年先の生活者ニーズを明らかにすること”を、ミッションに掲げる。主に「インテリジェンス事業」と「インキュベーション事業」の2つのアプローチで、クライアント企業のイノベーション支援を手がけている。
株式会社SEEDATA
代表取締役CEO