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【インタビュー】「ドローン活用を地域に根付かせる」広島県神石高原町ドローンコンソーシアムの挑戦

【インタビュー】「ドローン活用を地域に根付かせる」広島県神石高原町ドローンコンソーシアムの挑戦

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昨今、コロナ禍の混乱が大きくクローズアップされるが、日本社会が抱える課題は他にも様々ある。特に忘れてはならないのが、「地方創生」への取り組みだ。東京一極集中と少子高齢化が進む中で、地方の暮らしをいかにアップデートするかは喫緊の課題と言える。

こうした中で、「ドローン×地方」というアイデアで地域課題の解決に取り組んでいるのが、2019年10月に設立された広島県神石高原町ドローンコンソーシアムだ。人口約9000人という山間の小さな町を舞台に、「いつまでも安心して暮らせるまちづくり」を目指して、ドローン関連企業や防災専門機関、有名大学の研究所など7社が参画。今年2月には地域住人によるドローン公開実証実験も成功させた(※)。

※参考リンク:ニュースリリース「ドローンコンソーシアム 地域の担い手によるドローン公開実証実験を実施」

考えも立場も異なる関係者をまとめ、ひとつの目標に向かうために必要なものとはなんだったのか。そしてこの共創プロジェクトが生み出した成果とは?ドローンコンソーシアムのグランドデザインを担当したパーソルプロセス&テクノロジー株式会社(以下、パーソルP&T社)の城純子氏にオンラインインタビューを実施した。

▲パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 ビジネスエンジニアリング事業部 ドローンソリューショングループ 城純子 氏

2018年中途入社。前職はアウトソーシングベンダーでキャリアを積んだ後、新規事業に挑戦したいと考えパーソルプロセス&テクノロジー株式会社にジョイン。2019年、ドローンソリューションサービスの事業立ち上げに参画。

ドローン活用のユースケースを作り、地域活性化を目指す。

――まずは広島県神石高原町でドローンコンソーシアムが設立された経緯を伺えますか?

城氏 : もともとは2019年7月に神石高原町の自治体とパーソルP&Tが連携して「地域おこし企業人交流プログラム」を実施したことから、地域とのお付き合いが始まりました。そこで様々な地域課題が見えてきまして、「当社として、もっと色々な支援ができるんじゃないか」と考えるようになったんですね。

――具体的にどのような地域課題が?

城氏 : 神石高原町は、他の地方都市と同様に過疎化と高齢化がすごく進んでいる上に、山間部に小さな集落がポツンポツンと点在しているため、物流面では非常に苦労されているようでした。

また、2018年7月の豪雨災害で大きな被害を受け、今も河川の氾濫や土砂災害の影響が残り、未だに復旧できていない道路もあります。こうした状況を踏まえて、神石高原町を舞台にドローン活用のユースケースを作ることが街の活性化につながるのではないかと考えたわけです。

――先端技術の活用について、自治体の反応はいかがでしたか?

城氏 : 神石高原町の入江嘉則町長は、新しい技術にとてもポジティブな方なんですね。人口減少が進むことに対する強い危機感から、「良いものは積極的に活用して地域創生を引っ張っていくんだ」という熱い思いをお持ちで、今回の提案についても「やってみましょう」とすぐに賛同していただけました。

▲地図画像の中央、白抜き箇所が「神石高原町」。広島と岡山の県境の山間部に位置している。

ドローンはプラットフォーム機器。だからこそ、共創が鍵になる。

――1社単独でのサービス提供ではなく、産官学が連携するコンソーシアム型の共創プロジェクト(※)となった理由は何だったのでしょうか?

城氏 : ドローンの特徴が大きく関わっています。ここでは4枚羽の飛行型ドローンをイメージしていただければと思いますが、私たちはまず主な用途として「モノを運ぶ」、カメラなどを搭載して「情報収集する」と、大きく2つに分けて捉えています。

さらにドローンは、物流、農業、ゼネコン、土木など様々な産業に用いることができて、各業界で使い方も色々考えられるので、かなり広範な「プラットフォーム機器」なんですよね。そのため、活用にはドローン自体のハードウェアやソフトウェアの知識に加えて、用途ごとの業界知識も必要になります。当然、自治体がドローンを導入する案件なので、その地域のことも知らないといけません。

※神石高原町ドローンコンソーシアム参画企業・団体

広島県神石高原町、油木協働支援センター、株式会社アイ・ロボティクス、学校法人慶應義塾 慶應義塾大学SFC研究所、国立研究開発法人 防災科学技術研究所、ドローン・ジャパン株式会社、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社、楽天株式会社

――ドローンを用いる現場の知識も問われると。

城氏 : そうです。例えば神石高原町はちょうど山の傾斜に沿って町を形成していますので、そういった地形や自然環境に関する知識も求められます。ですから、ドローン活用のプロジェクトはなかなか1社で完結できるものではなく、各分野の知見を持つ企業・団体を募り、コンソーシアムを組んで進めるケースがほとんどなのです。

――ドローンコンソーシアムが取り組むメインテーマは、どのように策定していったのでしょうか?

城氏 : 地元からの声で言いますと、例えば農作物の鳥獣被害対策ですとか、孤立集落への医療品の運搬など、ドローン活用への要望は多岐にわたりました。

ただ技術的な問題や法律の壁があり、すべてに着手することはできません。そこで、現実的に実現可能性が高いものから取り組んでいこうと考えたのです。防災科学技術研究所さんのようなエキスパートが参画いただけることもあり、「災害対策に特化する」という方針を立てました。

――先ほどのお話を考えると、災害対応も重要な地域課題ですよね。

城氏 : 自治体の方のお話では、被災状況の把握だけでも1カ所ずつ現場を回り、手作業で県に報告を上げていたと。これでは万が一広域災害が起きた際には、収集がつかないし、少ない人員で集められる情報は限定的です。

そこで、このプロジェクトでは「ドローンを使ったマップ作成」、「災害時を想定した、孤立集落への物資輸送実験」、「ドローン操縦を行う“地域の担い手”の育成サポート」という3つの事業を立てることにしたのです。

正直、物資輸送に関しては法律面のハードルがまだ存在しますが、2022年には法改正も計画されていますので、来る将来に備えて今のうちに実証実験を進めましょう、という形ですね。

▲ドローンを使用して作成したマップ画像。災害前後の上空画像を比較表示(左:災害前 右:災害後)。

地域に根差すために、プロジェクトメンバーの移住も。

――パーソルP&T社は、コンソーシアム設立までのグランドデザインや参画企業・団体間の調整などを担当されたと伺っていますが、こうした業務は城さんが中心となって動かれたのでしょうか?

城氏 : 前任者と私ともう1名、それに地域おこし企業人として、現地に移住して動いていたメンバーが1人いまして、その4人で取り組んでいました。

――社員の方が現地に住んでプロジェクトにあたっていたのですか? 

城氏 : はい。コンソーシアムの運営自体は東京からでもコントロールできますが、今回は地元の方も大きく関わってくるので、地域とのコミュニケーションや現場でのコントロールという面で、「メンバーが現地に住むこと」は非常に貢献度が高かったですし、大きな意味があったと思います。私自身も、プロジェクト中盤から隔週1回のペースで現地出張していましたね。

――今回のプロジェクトで特に難しかった点や苦労した点はなんでしたか? 

城氏 : 地元の方々も含めた関係者の調整というところですね。例えばコンソーシアム間で言えば、我々も含めて営利企業ですので、各社それぞれに参画の意図や目的があります。

そうした中で、予算管理をしっかり行いながら各社のゴール調整を行うのは苦労しました。また、事業ごとにミーティングを密に行って進捗管理をしたりするなど、コミュニケーションの面では細心の注意を払いながら進行していましたね。

――色々な立場の参画者をまとめ、一つの目標に向かうのはかなり骨が折れそうです。何か意識して取り組んだことはありますか?

城氏 : プロジェクトが進み始めると、どうしても当初の企画書や計画書通りにいかないケースも出てきます。そうした時に大事なのが、この計画書をいかにリアルタイムで更新して関係者と認識合わせをするか。細かなマイルストーンをまとめた資料をExcelで作り、それを都度共有するようにしていました。

――地域の方々とのコミュニケーションについてはいかがですか?

城氏 : 私も含め、現地に入られるコンソーシアム企業担当者は積極的にコミュニケーションをとるよう心がけていました。地元の方からすれば、上空をドローンが飛ぶわけですし、それが一体自分たちのために何になるのか、皆さん心配されているんですよね。私たちとしても、「東京から来た人が何か分からないことをやっている」「どうせ、私たちの生活には関係ないこと」「ドローンの恩恵をうけるのは我々ではないだろう」と捉えられてしまうと悲しいですから(笑)。

不安払しょくのために、現地に住むメンバーが地域の内側から意思疎通を図っていったり、私たちからも地域の担い手さんの操作研修を見学にいらした方にプロジェクトの概要を説明したり、将来こんな風に役立つんですよ、といったお話を一人ひとりするようにしていました。

70代の住民でもできる、安全でシンプルなプロセスをつくる。

――今年2月末には公開実証実験としてマップ作成と物資輸送を実際に行われたとのことですが、具体的な成果を伺えますか?

城氏 : まずですね、ドローンを使ったマップ作成に関しては、完全に地元の方々のみで1から10まで実施することができました。ドローンの機体も町で購入していただいて、あとは自治体としてメンテナンス予算ですとか運用に向けた制度設計をクリアできれば、災害時のプロセスとしてやっていけるというエビデンスが取れました。

物資輸送についても同様なんですが、こちらは大きな産業用の機体を使うため、実証実験では当社所有の機体を用いたんですね。こうした大型ドローンはいわゆる産業機械ですから、かなりの訓練が必要です。それでもプロセスをシンプルにして、操作を最低限にすれば70~80代の担い手さんでもしっかり操作できたのは、大きな成果だなと思います。

▲物資輸送に関するドローンの飛行ルート

――地域の担い手さんは70~80代の方なんですか?! 勝手に若い方を想像していました。

城氏 : 年配の方がほとんどでしたが、皆さんラジコン世代でもあるのでドローン操作への興味関心は高かったですね。とはいえ、今後ドローンはパソコン上でコースを設定する完全自動航行、自律航行が中心になっていくと思います。

こういったIT機器の操作についても、いかに安全を担保しながらシンプルなプロセスをつくれるかがポイントです。この点に関しては、私たちがアウトソーシング事業で培ってきたプロセス設計などのノウハウを活かせると思っています。

――コンソーシアムの参加企業・団体からのフィードバックはいかがでしたか?

城氏 : コンソーシアムの企業・団体で言うと、例えば防災科学技術研究所さんから今回の実証実験をもとに研究発表資料がリリースされるなど、形ある成果が生まれたことがひとつ。

我々も含めて民間企業としては今後、自治体でのドローン活用が広まっていく中で、自治体の年度末に当たる3月までという期間内にひとつの実績をつくれたことは大きなメリットになったのではないかと思います。

移動が制限される時代に、さらに高まるドローンの価値。

――今回のプロジェクトを担当して、城さんご自身はどんな手ごたえを得ましたか?

城氏 : 一般的に東京の企業か地方に行って何かをやろうとすると「こちらがやってあげる」「技術を渡す」といったイメージがとても強いと思います。自治体や地元住民の方も、「東京の人にやっていただいて申し訳ない」「ありがとう」といった会話がよくあったのですが、そうした意識だけだと、このプロジェクトを成功させるのは難しいと思っていました。

実際、地域の担い手さんによるドローン操作も、最初はコンソーシアムで機体を貸し出して、使い方を教えてという形で手取り足取りから始まったのですが、実証実験は「自分たちだけで飛行させる」というゴールを設定していたので、だんだんと手放していったんですね。その中で、「これはイケるかも」と感じた瞬間がありまして。

――どんな時に心境の変化が生まれたのでしょう?

城氏 : 実証実験前の最後の訓練です。物資輸送用の大型ドローンを飛ばして上手くいかなかったときに、「じゃあこうしてみよう」「ああしてみたらどうか」と担い手さん同士で試行錯誤するようになっていたんです。担い手さん一人ひとりが目まぐるしく成長されていて、すごく驚きました。

プロジェクトの成功には、地域の方の自主性と言いますか、「自分たちのドローンのプロセスだ」「自分たちの事業だ」と思っていただけるようにするのが大事だと思っていたので、こうした形に持って行けたのは大きかったですね。

▲ドローン操縦研修の様子

――神石高原町でのプロジェクトは、今後どのような進展を計画していますか?

城氏 : 地元の方だけでドローンがあればいつでも飛ばせる状態は出来ましたが、例えば災害が起きた際のドローン運用の指揮権ですとかオペレーションルールなど、細かなプロセスデザインが次のステップです。

入江町長も、地域の生活や生業の中でドローンを活用する段階までぜひ持っていきたいという想いをお持ちなので。今はコロナ禍でストップしていますが、落ち着いたら再開したいという風にはおっしゃっていただいています。

――他の地域でも、こうした取り組みを進めていく計画は?

城氏 : 今回と同じようなユースケースはどこの自治体、エリアでも入ってくるのかなという実感は湧いています。ただ、山と海とでは使い勝手も異なりますので、色々な地形の中で事例を広げていくことが今後の課題です。

ドローンの活用は、色々な形で必ず地域に貢献できると考えていますし、地元の皆さんがドローンを使うというのは価値が高いと思っています。それにコロナ禍の影響で、移動に対して制限がなされる世の中になっていくとすれば、ドローンを地域の中で使えるプロセスを作っていくのは、ひとつのキーになると思っています。

取材後記

今、全国の自治体が様々な課題に直面し、乗り越える施策を探し求めている。こうした中で、広島県神石高原町ドローンコンソーシアムの取り組み事例は大きな意味を持つ。

城氏のインタビューから見えてきたのは、地域ニーズに合ったイノベーションの開発・提供するだけでなく、地元住民の理解と当事者意識を醸成することの重要性だ。必要があれば地域の内側に入り込み、地道なコミュニケーションを重ねる。そうした共創の姿勢が、将来の暮らしを変える第一歩になるはずだ。

(取材・編集:眞田幸剛、文:太田将吾)

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