アグロデザイン・スタジオ|農薬スタートアップとして国内初の資金調達に成功
国内初の創薬型の農薬スタートアップである株式会社アグロデザイン・スタジオは、リアルテックファンド、インキュベイトファンドなどからシードラウンド・ファーストクローズの資金調達を行ったことを発表した。シードラウンド・セカンドクローズ(締切済み)を含めて約1億円を調達する。
今回の調達および「農水省令和元年度農林水産業等研究分野における大学発ベンチャー起業促進実証委託事業」への採択や「日本財団ソーシャルイノベーションアワード優秀賞受賞」を追い風に、科学的エビデンスに基づいた安全安心な農薬開発を加速するという。
▲左より 吉開祐貴氏(リアルテックファンド)、西ヶ谷有輝氏(アグロデザイン・スタジオ代表取締役社長)、村田雄介氏(インキュベイトファンド)、種市亮氏(インキュベイトファンド)
調達の背景と目的
今回の資金調達は、国内の農薬スタートアップがベンチャー・キャピタルから資金調達をした初めての例になる。農薬開発は、1剤当たり100億円以上の研究開発費と、10年以上の歳月がかかる非常にリスクの高い事業。このリスクの高さから、これまで国内には低分子化合物型農薬(主流の農薬)の新薬を研究開発する創薬型スタートアップは存在しなかった。一方、創薬型スタートアップが多数存在する医薬業界では、初期の研究開発はスタートアップとベンチャー・キャピタルがリスクを取って行い、後半の開発は大手製薬会社が引き継ぐというエコシステムが確立されている。この医薬モデルを取り入れて農薬開発を推進することを目的に、今回の資金調達を行った。
今回の資金調達額約1億円に加え『農水省令和元年度農林水産業等研究分野における大学発ベンチャー起業促進実証委託事業の助成金』と『日本財団ソーシャルイノベーションアワード優秀賞受賞による活動奨励金』をもとに研究開発を加速させるという。
具体的な資金使途として、開発中の複数の農薬候補剤の改良および温室試験や安全性試験を行う。加えてチームメンバーの強化。農薬の研究開発では多分野にわたるサイエンスやテクノロジーが必要だが、特に創薬化学者(メドケム)の採用に力を入れるという。
アグロデザイン・スタジオ起業の背景
近年は農業が人や環境に与える悪影響が大きなトピックとなっている。特に農薬においては、グリホサート系除草剤(発がん性の疑い)や、ネオニコチノイド系殺虫剤(ミツバチの大量死の疑い)など、世界市場で数千億円規模のベストセラー農薬の発売禁止国が広がっている。一方で、無農薬有機栽培は収穫量が低下するため、国内では0.2%の農地でしか行われていない。
アグロデザイン・スタジオは、「99.8%の農地で使われる農薬をより安全なものに」をビジョンに、東京大学や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で新規農薬の研究開発を行っていた西ヶ谷有輝氏(同社代表取締役社長)によって2018年3月に設立された農薬スタートアップ。現在同社では、『撒くと環境汚染が減り作物の成長がよくなる硝化抑制剤』、『特定の害虫を選択的に退治する殺虫剤』などの複数の農薬の開発を進めている。
アグロデザイン・スタジオのコア技術
アグロデザイン・スタジオが開発中の農薬は、『(1)低い毒性リスク』と『(2)しっかり効く』ことが特徴。
(1)低い毒性リスク
開発中の農薬は、「ヒトには無いタンパク質」をターゲットに薬剤開発をしている。薬剤のほとんどは、生体中のタンパク質に結合して、その働きを抑えることによって機能を発揮。同社が開発中の薬剤は、ゲノム解析などによってヒトや環境中の重要な生物には存在しないことが判明しているタンパク質をターゲットにしているため、毒性リスクを減らすことができる。
(2)しっかり効く
農薬は、防除対象生物側に薬剤耐性が出てくるため、数年使い続けるとだんだん効かなくなってくる。新薬でも既存薬と作用機序(ターゲットとなるタンパク質)が同じだと、すぐに薬剤耐性が出てしまうことがある。同社が開発中の農薬はすべて新規な作用機序を持ったもの。そのため、薬剤耐性が出にくい農薬になるという。
SDGsに対する取り組み
アグロデザイン・スタジオは、日本財団のソーシャルイノベーションアワードの受賞を背景に、今後SDGsへの貢献を加速させる。その象徴的な薬剤が硝化抑制剤。この薬剤は、散布により作物(特に家畜の飼料となる穀物類)の収穫量アップと、窒素肥料汚染防止や温室効果ガス削減などの環境負荷の低減が期待できる。より豊かで健康的な生活を送りたい(例:ステーキを食べたい!)という欲求と、農業が原因の環境負荷を減らしたいという欲求をともに満足させられるとても“セクシー”な農薬という。
各社のコメント
■株式会社アグロデザイン・スタジオ 代表取締役社長(創業者)西ヶ谷 有輝氏
農薬が無ければ今の地球人口の半分も養えないといわれるほど、農薬は人類にとって重要な資材です。それにもかかわらず、農薬は環境や健康に悪いというイメージが先行して、消費者から嫌われています。私は農薬の研究者として、このような悪者にされがちな農薬のイメージを払拭したいと考えてきました。
農薬の安全性を高め、消費者に安全安心な食品を提供するためには、農薬産業にスタートアップが参加することで技術革新を加速させることが重要です。しかし、世界的に見ても農薬スタートアップは、ほとんど存在しません。農薬産業は、スタートアップの領域としては完全なブルーオーシャンである一方、技術的・法規制的に非常に高い参入障壁が存在します。このよう状況の中、バイオやアグリ分野に強いリアルテックファンドおよび豊富なExit実績をもつインキュベイトファンドなどと組むチームは、農薬スタートアップという新しい分野を切り開くうえで最適な布陣と言えます。このチームで、消費者の皆様に安全安心をお届けできるよう、研究開発に邁進する所存です。
■リアルテックファンド グロースマネージャー 吉開 祐貴氏
現在、環境問題・健康問題を契機として世界中で農薬業界のパラダイムシフトが起こりつつあるなかで、ヒトや環境に対する毒性リスクが極めて低い農薬デザイン技術を有しているアグロデザイン・スタジオは、まさに地球と人類の課題解決に資する革新的なテクノロジーを有するリアルテックベンチャーです。日本そして世界を代表する農薬スタートアップに飛躍を遂げると信じ、共に社会実装を実現していきます。
■インキュベイトファンド ジェネラルパートナー 村田 祐介氏
西ヶ谷さんとは当社設立直後の2018年春に初めてお会いさせて頂き、昨年当方主催プログラムであるIncubate Camp 12thに参加頂いたことがご縁となり今回出資させて頂きました。昨今環境や健康面で危険な農薬が世界中で次々に使用が禁止されている中、当社が研究している薬剤は安全性の高い代替品として大変期待されており、開発に成功すればSDGsに大きく貢献することが可能です。世界でもあまり類を見ない社会解決型の農薬ベンチャーであり、今後の展開を大変楽しみにしています。
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(eiicon編集部)